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第003話 傀儡の加護

 ハキリアリの目を通して浮かぶ自身の情報に思わず目を見開くポックル。


 これまでスライムを数えきれないほど倒してもレベル1だった傀儡の加護が一瞬にしてレベル10にまで跳ね上がっている。


 ハキリアリのキノコの効果は嘘じゃなかったみたいだ。扱える傀儡も5つに増えていた。


 あとは増えた傀儡が戦闘向けならリザードマンと渡りあえるかもしれない。


「どうしたの? まさか食中毒になってないわよね?」


 固まって動かないポックルを見て不審に思ったのか、ケシィが眉をひそめながら喋りかけてきた。


「大丈夫、なってないよ。

 それより傀儡の加護のレベルが10になってるんだ。

 キノコの効果は本当だったみたい」


「レベル10!? ありえないずら……お城の大人の兵士たちと同じレベルずらよ!!」


 口をあんぐりと開けているレプリオをよそ目に、新しく増えたシビレヤモリとバクスパイダーを呼び寄せてみる。


 ポックルが手を地面に向けると木製の玩具のようなヤモリとクモが現れた。


 大きさはハキリアリと同じくらいだ。

 カンパヤンマで分析すると脳裏に情報が表示される。


『名称:シビレヤモリ

 効果:

  近くで動くものに噛みつき麻痺させる』


『名称:バクスパイダー

 効果:

  強度を自在に調整できる粘性の糸を放出する』


 どちらも戦場で使えそうな効果だがポックルの欲しかった戦闘向きの傀儡ではない。

 どちらかといえば敵を足止めするための傀儡だ。


 この傀儡たちでは到底バッカスに歯が立たないだろう。

 残された傀儡はあとひとつ。


 これが戦闘向きでなかったらいよいよトネリコの国は敗色濃厚だ。


 心臓の鼓動が素早く脈打つ中、ポックルは最後の傀儡である我樹丸を呼び出すため再び地面に手を向けた。


 次の瞬間、ボンッという音と共にモクモクと煙が舞い上がる。


「うわっ!! な、なにこれ!?」


 今までになかった展開に思わずポックルも叫び声を上げ後方に飛び退いた。


 徐々に煙が薄まり目を凝らすと、ポックルの外見によく似た球体関節人形が目の前で佇んでいた。


 黒い髪を覆うように木製の頭部に巻かれたバンダナ。

 年はポックルたちと同じくらいに見える。

 

 腰には木刀を携え、身の丈ほどある紺色の外套を肩から羽織っていた。

 じっと俯いているため意識があるのかすら判別できない。


「……これって、本当に傀儡なの?」


「ポックルと同じ見た目してるずら……」


 ケシィとレプリオもすぐ近くで驚いた表情を浮かべている。


 だが一番驚いていたのはポックル自身だった。


 今まで自分と同類の存在になど会ったことがなかったからだ。この子はいったい何者なのだろう。


 もしかしたら自分のことを知っているかもしれない。


 目の前で俯いている子どもに近づき、おそるおそる喋りかけてみる。


「ボクはポックル。君は誰? ボクのこと知ってる?」


 反応がかえってこない。

 不審に思い相手の顔を下から覗き込んでみると、輝きを失った義眼と真一文字に結ばれた口が見える。


 どうやらポックルと違い意思や感情の類いを持ち合わせていないようだ。


 ひとまずカンパヤンマを呼び寄せ分析すると相手の情報がポックルの脳裏に浮かび上がってきた。


『名称:我樹丸

 特性:武士の加護 Lv.1

 スキル:

  ・オートマタ式木刀術 一式 禍威(かむい)


 オートマタ式木刀術とはなんだろう。

 傀儡なのに加護を授かっているなんて今までになかったパターンだ。


 再び出てきたオートマタという言葉にポックルも眉をひそめ首を傾げる。


「とりあえず戦闘向きの傀儡みたい。

 だけど操作型だからボクが操らなきゃいけない。

 うまく使いこなせるかなぁ」


「まだあと1週間あるわ。なんとかなるわよ」


「窮地に追い込まれたら身を潜めるだけずら。

 おいらの加護を使えば見つけられっこないずらよ。

 かくれんぼには自信があるずら」

 

 後頭部で腕を組んだレプリオが欠伸をしながらあっけらかんと言い放つ。


 そこまで言い切れるレプリオの加護とはどんな能力なのだろう。


 今まで友達のスキルを勝手に覗いたことはないだけに気になりはじめる。


 バレないようこっそりカンパヤンマを魔力の糸で操作し、レプリオの方に向けてみた。


『名称:レプリオ

 特性:守人の加護 Lv.1

 スキル:

  ・スケアマジック

   一定時間だけ透明になれる

   他者に使用することも可能』


 なるほど。透明になれるスキルなんて持っていたのか。

 であればレプリオが隠れることに自信満々になるのも頷ける。


 守人の加護とは特異加護なのだろうか。

 ポックルがはじめて目にする加護だった。


 そっとカンパヤンマを操り今度はケシィの方へ向ける。


 だが脳裏に浮かび上がってくるはずの情報が一向に表示されない。


 なぜか情報にぼかしが掛かっているのだ。

 目を凝らしてよく見ると辛うじて情報が垣間見える。

 

『名称:ケシィ

 特性:魔導士の加護 Lv.1

 スキル:

  ・初級火属性魔法

   小さな火球を相手に放出する』


 どうして霞んで見えるのだろう。魔導士の加護はこれといって特殊な加護でもないのに。


 ゴシゴシと目を手の甲でこすってみても結果は変わらなかった。


「そろそろお城に戻った方がいいわ。

 シロマ様に会って今後の方針を決めましょ」


 夕焼け空を指差しながらケシィが呟いた。いつの間にか日も暮れかかっている。


 どうやら思っていたより長くダンジョン内に滞在していたみたいだ。


「そうだね。続きは明日にしよう」


 ポックルは呼び出していた傀儡たちを魔力の粒子に戻し手の平から吸収する。


 傀儡たちの能力は明日確かめるとしてダンジョン交戦に向けて作戦も練らなければいけない。


 これから忙しくなりそうだ。

 最後の傀儡を魔力に霧散させ回収するとポックルはお城に向けて歩きはじめるのだった。


 ◇ ◇ ◇


 お城に戻ったポックルたちはシロマ様に会うため執務室に向かう。


 ダンジョンから戻ったら執務室に来るようシロマ様に言われていたからだ。


 1週間後のダンジョン交戦に向けて話しておきたいことがあるらしい。


 それにしてもずいぶんと城の兵士たちが少なくなったように思える。なにかあったのだろうか。


 執務室の部屋をノックし中に入ると机の上に置かれた山積みの書類が目に飛び込んできた。


 その間から椅子に座って黙々と書類に目を通しているシロマ様の姿が見える。


「トネリコの国を出ていく人が後を絶たなくてね……」


 どこか疲れた顔でポックルたちに笑いかけてくるシロマ様。


 そういえばダンジョンから戻る途中でも大きな荷物を背負った兵士を数人見かけた。

 あれはトネリコの国から移住を決めた兵士たちだったみたいだ。


「万に一つも勝ちは無いとみんな諦めているのでしょう。

 彼らにも生活があるので仕方ないですが」


「リザードマンたちはボクらを見て舐めてかかるはず。

 そこをうまく突けばきっと勝機も生まれるよ!」


 暗い顔で今の状況を吐露するシロマ様にポックルは励ますよう意見する。


「そうですね……そうだ、ここに呼んだ理由ですがダンジョン交戦を見届ける立会人としてミストラルからシャルロット様が来られます。

 ダンジョン交戦に選ばれたメンバーの顔合わせを行う場でもあるので明日の朝、玉座の間に集まってください」


 ダンジョン交戦では他国から派遣される立会人が両者の間に入り揉めないよう取り仕切る。


 その立会人がミストラルから派遣されるという話しだった。ミストラルは中央大陸にある大国のひとつだ。


 青の王国とも呼ばれ水資源に恵まれた国だと聞いたことがある。

 

 シロマ様にお辞儀し執務室から出たポックルはケシィたちに別れを告げひとり自分の部屋に向かう。

 

 バッカスとはどんなリザードマンなのだろう。

 格下に対して油断する性格であれば助かるのだけれど。


 物置き部屋に戻ったポックルはバッカス率いるリザードマンとの顔合わせに備え急いで眠りにつくのだった。


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