「私は喰ったのだよ。愛する者を」
「まず隠密の術はアイリン譲りで俺が知っている。侵入してくる」
「しかし、国王は……多分仙人、となれば熟練の魔法使いですよ? 私とも比較にならないぐらい」
「ヴーン・ウィッチの撃破で多少自信がついた。やってみるよ」
「うーん、化け物」
俺達の会話を聞きリンドが腕を組む。
城壁は超えた。
後は、俺が手引きするだけだ。
気配探知を有効にすると同時に、自分の気配を消す。
見張り兵の隙間を見つけ、慎重に進む。
そのうち、特異な感覚をキャッチした。
何度も感じたことがある。
不死者の気配。
一つの部屋からしている。
俺は、その扉を、開けた。
「……暗殺者、にしては気配が穏やかだ」
ベッドに腰掛け、淡々とした口調で老人は言う。
憔悴しているようだった。
王なのだと悟った。
「ハイラル国王、クラフトと言います。無礼をお許しください」
「かまわん。どうせ人魚の話だろう。不死者殺しの件で寝つきが悪い。戯れにそなたの話相手をしてやろう」
「感謝します」
「さて、どこから話そうか……」
そう言って、老王は頭上に視線を向けた。
「あれは、千五百年前だったか。あの頃は、魔法生物も当然のようにいた。人々は龍を駆り、天を駆けた」
「想像もつかぬ世界です。そこで陛下は、人魚を捕まえる術を?」
「いや、私は捕まえたのではないよ」
老王は苦笑した。
「そもそも私には不老不死の資質もなかった。俄の術は五百年の間に綻びを見せ、私は随分老いて行った。その時、陸地に打ち上げられた人魚を救ったのだ。綺麗だった。今で思い出せる」
老王の瞳が遠くを見るようになる。
その瞳に、憂が宿った。
「我々の逢瀬は続いた。しかし、私は老いた。歩けぬようになった。そのうち、彼女は言った。自分の生き血を吸えと。吸えば若返るのだと」
俺は、息を呑んだ。
それはまさに、俺達が欲しい長寿のヒントではないか?
「若返った……のですか?」
老王は頷いた。
「白髪は黒く染まり、シワは消え、私は強大な魔法使いに戻っていた。そして理性すらも消えていた」
俺は背筋が寒くなった。
「と言うと?」
「私は永遠が欲しくなった」
その先は、聞きたいような、聞きたくないような。
俺は黙り込む。
老王は苦笑して、話を続けた。
「私は喰ったのだよ。愛する者を」
沈黙が場に漂った。
「人魚達が歌で人を遠ざけ始めたのは、それからだ」
老王は項垂れる。
「私に話せるのは、それが全てだ」
つづく




