「ちょっとした手品ですよ」
「建国神話に関する本は、貸出中ですね」
図書館の受付嬢は面倒臭げにそう言った。
「なに⁉︎ 国内の者が今更建国神話を読むのか⁉︎」
「いえ、その方も旅の方です。そこで読み耽っておられます」
そう言って一点を指す。
若い女性が、分厚い本を読んでいた。
ミリィが駆け寄っていって、声をかける。
「こんにちは」
「……こんにちは」
「ここで出会ったのもオーヴァ神の導き。どうか我々にもその本を読ませていただけませんか?」
「オーヴァ神……ハイラルの人かな」
俺は目を見開いた。
ミリィは微笑んで頷く。
「ええ、そうでありますれば」
「しかし訛りはヨルムドだ」
淡々とした口調で言う女。
背に大剣を背負っている。
「君はあちこちを旅してきたようだね」
女は頷く。
「西はハイラルから東はヘンリルまで」
「錬金術師の国、ヘンリルか」
「ああ。成果はなかったけどね」
溜め息混じりに言う女。
「あんたらも人魚の肉を求めて旅しに来た口かい?」
「では、貴方も?」
「ライバルに教えることはないね。けどこの本は共有物だ。私は読んだから読みたいから読みな」
そう言うと、女は立ち去ろうとした。
「また会いましょう、リンドさん」
女は目を見開く。
「……私、自己紹介したっけ」
「ちょっとした手品ですよ」
ミリィは悪戯っぽく微笑んでいう。
リンドと呼ばれた女性は薄気味悪げに去っていった。
「有益な情報を得たようだな」
「ヒントは」
ミリィは頷く。
「どうやら北の波の流れが激しい浅瀬で、王は人魚を捕らえたそうです」
読心。ミリィのギフトだ。
「……行くだけいってみるか」
俺は呟くように言うと、司書に本を返した。
続く




