「人魚の肉を食ったんでさぁ」
茶屋に入る。
ルポイ国での経験から抵抗感があったが、気障な詩人はいないらしい。
「この国の王ですか」
店主は戸惑うように言った。
「お客さん、旅の方で?」
「ええ、ハイラルから来ました」
「ふうむ? 知らぬ国だ」
随分遠くに来てしまったらしい。
そもそも、階層の強さから他国をろくに知らぬものも多い。
大勢の人間が階層の中で一生を暮らすのだ。
かつての、灰色の空しか知らなかったリーシェやリディのように。
「まあ、私の祖父の代には既に玉位について……千年祭と言うものが行われたそうですね」
「千年……」
ミリィが気が遠くなったような表情をする。
「立派な御仁ですよ。贅沢もせず貴族の勝手も許さず善政を敷いている」
「ふむ。それは是非話してみたいな」
「それがどう言うわけか門を閉ざしていて……現在各地は貴族や町長による自治によって運営されています」
「ややこしい話になってきたな。王の他に城内に人はいるのか? 食事の搬入をしている者などはいないのか?」
「宮廷には十年引きこもれるだけの食材があるとかで……すっかりそう言う話も聞きませんな。私の店も王に茶葉を献上していたが最近はめっきりその催促もない」
「茶葉か……ハラドが喜ぶかな。おすすめの品を包んでくれ」
「毎度。旅の方、噴水には行かれましたか?」
「いや?」
「王都の中央に千年祭で建てられた噴水があります。見事なものですよ」
「それは是非行ってみよう」
茶葉が入った包みを受け取り、ミリィの手をとり、歩き出す。
そして、階段を降り、小舟に乗る。
王都にはなんと水路が張りめぐされている。
その中を、小舟に乗って移動するのだ。
「見事な水路であるな」
俺は水夫に話しかける。
「たまに国外から人が来ますが、それは驚かれますね。貴方の国は?」
「今は火山灰の撤去でてんてこ舞いだ」
肩をすくめる。
兵力を動員しているもののリーシェは上手くやっているだろうか。
「かざんばい?」
火山の概念がそもそもないらしい。
「なんでもない、忘れてくれ」
俺は苦笑まじりに言って、ミリィに囁く。
「ずいぶん遠くまできたものだな」
「ハイラルの火山といえば有名だと思っておりましたが」
ミリィも戸惑いがちだ。
辿り着かなくても見えてきた。
水が高々と噴き上がっている。
「見事なものだな」
関心まじりに言う。
「ラハルの名物でさ」
「時にそなた、この国の国王殿はどうやって仙人になったのだ?」
「ああ、これは噂ですがね」
そう言って水夫は声のトーンを落とす。
「人魚の肉を食ったんでさぁ」
「にんぎょ?」
今度は俺達が戸惑う番だった。
続く




