「その心遣いが嬉しいのです」
これは難問だ。
俺はミリィに送るプレゼントを探していた。
ミリィの出した条件は一つ。
俺が選ぶこと。
好きなものならなんでも手に入れると言ったのだが、それはその一点で断られた。
「だって陛下は自ら選んで花をアイリンに送ったのでしょう?」
(ミリィの好むもの、好むもの……魔道具か?)
しかしこの国に魔導に関係する品などあるだろうか。
そもそもミルドと技術交流をして研究を深めたハイラルだ。欲しい品なら在国時代に十二分に手に入っただろう。
これは難問だ。
ふと思った。
アイリンより多くプレゼントすれば間違いはあるまい。
単純なガサツな発想だった。
我ながら肝心な時にギフト策謀が活きていない。
戦闘面にしか使えぬのだろうか、このギフト。
策謀と言っても武略面が強いものな、と溜息を吐く。
そうして俺は、町外れに言って、手頃な材料を揃えて、それを作り上げた。
おずおずと王宮の一室をノックする。
俺達が滞在している部屋だ。
「陛下ですか?」
「わかるか?」
「これだけ付き合いが長ければ足音でわかりますれば」
苦笑交じりの声。
安堵して、扉を開ける。
ミリィとじっと目があった。
緊張は一瞬。
ずいっと近寄ってずいっとそれを差し出した。
それは、花の冠。
ミリィはそれを見て、一瞬表情を華やかせたが、すぐに疑わしげな表情になった。
「これを陛下に教えたのは女ですね?」
ぎくりとした。
「何故そう思う?」
「花の技を覚えたとすればミルドだ。しかしミルドで貴方の世話をしたレイヴン様がこのような繊細なことを伝授できたとは思えない。するとなれば女、簡単な方程式です」
「子供の頃戯れに習っただけだ。そこに特別な関係はない。嫌か?」
ミリィはじっと、花冠を眺めた。
そのうち、ふっと苦笑すると、杖を向けた。
炎が爆ぜるか? と思いきや、花は質感が僅かに変わったようだった。
「……これは?」
「特別な保存魔法をかけました。これで朽ちていくことはありませぬ」
そう言って、俺から花冠を受け取って、頭に被る。
「良いのか? そんなそこらで摘んできたもので。その、女から習った品で」
「陛下が自ら考えて、陛下が手ずから作ってくださった。我が故郷ハイラルには花が咲きませぬ。その心遣いが嬉しいのです」
そう言って上機嫌に微笑む。
「そなたが嫁で私は幸せ者だ」
安堵混じりに言う。
少々心臓に悪い思いをさせられたが。
「ミリィも、陛下もアイリンも大好きでございますれば」
そう言って花冠に手を添えてくるりと一回転する。
「私にも作り方を教えてくださりませぬか?」
「いいぞ。簡単だから、今日の出発にも間に合うだろう」
俺達は、手を繋いで、外へ向かって歩き始めた。
そのうち子供が集まってきて、ちょっとした騒ぎになったのは細やかな余談である。
俺達は旅立つ。次なる国へ。
+++
アイリンはスカーレットと対面していた。
念じたら本当に通じた。
リーシェの命令を半信半疑で実行したアイリンだが、直に山の頂に導かれた。
「不死者殺し、簡単な手品さ」
そうスカーレットは苦笑して言った。
「我々不死者は、自らの命を終わらせる暗号をそれぞれ持っているのさ。永遠の生を苦痛に感じた時その暗号を解くことにしている。我々を模倣するというやつはそれを使って不死者を亡き者にしてきたのだろう」
アイリンは心がざわめくのを感じた。
「では、スカーレット様も危ないのでは?」
「大丈夫。私はそもそも出会いも別れも好きだ。一人の時間も大勢の時間も好きだ。適度に人里に介入して遊んでいる。そもそもそんな暗号必要ないのだよ。作っていないのさ」
なるほど、この人は正真正銘の不死者なのだ。
そして、その瞳が、アイリンの懐の一点で止まった。
「花を、持っているね」
どきりとする。
「摘んでから随分時間が経っている。水につけなかったんだね」
「つけるべきでございましたか」
落胆する。
陛下から下賜された大事な花。今では見る影もない。
「経験がないなら仕方ないことだ。まあ、私に任せておけ」
そう言って、スカーレットは指をくいっくいっと曲げる。
アイリンは、その意図を汲み、花を懐から出した。
温かな光が花に宿った。
「これで、その花の命は永遠だ。君が死んでも子々孫々と残ると思うよ」
花を抱いて、深々と頭を下げたアイリンだった。
「ありがとうございます、この御恩は一生忘れません」
この花を抱いて自分は生きようと思った。
自分の仕える主君からもらった花を誇ってどんな危険な地にも足を踏み入れようと思えた。
ドレスを着るのだけはちょっと抵抗があるが。
「では、また。君もまた、旅立ち給え。彼らも旅立つ頃だ」
「はい!」
迷いなく言うと、周囲の景色は元のヨルムドの平地。
化かされたような気分に戸惑いながら花を見る。
その可憐さに胸ときめかせながら、アイリンは帰路についた。
成人期・イリス国編2完




