(陛下、時間をお稼ぎください!)
(さて、どう勝つ……?)
今の俺なら勝ち筋はある。
だが、あの外見に切り込む気が起きない。
なにせ、愛妻の外見だ。
斬るに斬れない。
(どうしたもんかなあ……)
(陛下、時間をお稼ぎください!)
脳裏に急にミリィの声が響いた。
(敵の特性、把握しました! 奥の手があります! 時間を!)
頷いた瞬間、眼の前の偽ミリィが黒い靄に戻った。
そして、すっと逃げていった。
「なんだったのだ……」
唖然としてアイリンを降ろす。
「心を読まれましたかな」
窓から杖に乗ったミリィがやってくる。
「空間に隔離してやるつもりだったのですが、見事に避けられた」
「一番の強敵はそなたであったな」
苦笑交じりに言う。
「まだまだ仙人クラスには及びませぬよ。それにしては謎が残ります。空間の隔離が脅威なら仙人など殺せない」
「……謎だな」
アイリンは焦るように背筋を伸ばし胸に手を置いた。
「それでは! アイリン! 任務を終えたので帰路に付きます!」
俺は驚いた。
「そんな急ぐことはあるまい。まだ危険があるかもしれまい」
「大丈夫です、私の模倣であれば私は対処可能です、では!」
足音すら立てずに駆けてアイリンは窓から逃げていった。
「陛下」
ミリィが呟くように言う。
「アイリンちゃんに、花あげたんだ」
アイリンの心を読んだらしい。
「ああ、戯れに下賜したぞ」
それがなんだろう。
「……私にプレゼントくれたことって、あったっけ」
闇の中に沈黙が漂った。
重い重い沈黙だった。
「ま、魔力増念波」
「それは私のを駄目にしたからの補填ですよね」
再び沈黙が漂った。
つづく




