「なんだ、この気配……」
「やあ、早いお帰りだったね」
黄金の林檎園の仙人は、そう言ってミリィを出迎えた。
ミリィは苦笑して深々と頭を下げる。
「王子殿下達は?」
「農業をさせているよ。悪企みも動いて頭を空にすれば忘れるだろう」
淡々ととんでもないことを言う仙人。
王族に農業なんて大胆なことをさせる。
「不平は言いませんでしたか?」
「法のない世界では力だけがルールを決めるのだよ。私はこの世界に於いて最強だ」
人の悪い笑みを浮かべる仙人。
(敵わないなあ)
苦笑してしまう。
「して、今日は昨今噂の不死者殺しについての件だね?」
「お気づきでしたか」
「アンノーとも念話友達だからね。僕ら仙人は暇だから会話が一つの暇つぶしなのさ。スカーレットも私から話しておくと伝えておいたよ」
「では、不死者殺しは……?」
「断定はできないが、多分いるんだろうね」
気が重くなる。
この先、未知の存在との戦いが待っているかも知れない。
化物、と呼ばれるミリィにも届く条理の外だと思われて枠からさらに外れた存在。
「しかし私には想像もつかぬのです。私はスカーレット様に勝てる気がしない。亭主もそうでしょう。そんな仙人様達を次々と亡き者にしてきた。ありえない話です」
「しかし、古代人は滅びた。圧倒的に高い魔法文明を持ちながら」
ミリィは黙り込んで考え込む。
怠惰による暴走。自滅だったではないか。
ミリィの思考を読んだように、仙人は頷く。
「そうだね、あったのは怠惰だ。でも、その影で動く存在が居たのかも知れない。破滅に至るにはあまりにも効率が良すぎた」
「なら、今回の敵は古代世界を終わらせた技術……?」
そうと見るしかないだろう。
仙人は深々と頷き、はっとしたような表情になる。
魔力探知。
莫大な魔力の放出にミリィはぞくりとした。
「なんだ、この気配……」
「なにか、感じられたのですか?」
「君は感じないか? 王都の方だ」
そう言って、深刻な表情で続ける。
「人間であって、人間でない」
謎かけのようだ。
しかし王都には亭主がいる。
「私は一旦王都に行きます。生きて帰れたら一つ、お願いしたいことがございます」
「止めたいが……亭主殿がおられるのだったな。止むを得まい」
そう言って、仙人は現界へのゲートを開いた。
ミリィはそれをくぐると、魔力探知を開始する。
なんだ、この気配。
圧倒的な魔力とは程遠い。
圧倒的な武力とも程遠い。
虚無。
それが、歩いて王都を目指している。
悪夢をみているようだった。
ありえない存在。
それが今回の敵のようだった。
つづく




