「アイリン、様子が変ではないか?」
アイリンは用意された部屋で待っていた。
貴族の着るようなドレスを着ている。
「恐れ多いことです……」
アイリンは項垂れてそう言った。
「ほうほうほう」
珍しいものを見た。
迷彩カラーではないアイリンなんて珍しい。
元々ミルドの放浪児にして忍びの道に長けし者。
貴族のドレスはよほど居心地が悪いと見える。
項垂れて小さくなりながら胸に手を当てている。
「どこぞの姫君かと思った」
アイリンがますます小さくなる。
「揶揄わないでくださいまし」
か細い声で言う。
その様子を見ていると、ますます照れさせたくなる。
「揶揄ってなどないさ。ほれ、こうしてみろ」
そう言って、花瓶の花を一本手折り、アイリンの髪に飾る。
「ほれ、姫君のようだ。そうだ、そなた、我が家の養子にでも入るか?」
うん、俺と気が合うしミリィとも仲が良いしそれが良い。
バッとアイリンは跳躍した。
そして、天井に張り付いた。
ドレスのスカートがだらんと重力に引かれて下がっている。
苦笑した。
「すまぬ、もうこれ以上そなたで遊ばぬ。降りてまいれ」
「……本当でございますね?」
恨みがましげに言う。
「ああ、偽りはないよ」
アイリンは降りてきた。
俺はその髪から花を取ろうとする。
その瞬間、またアイリンは天井へと飛んだ。
ああ、そうだ。リーシェにもキツく言われた。婦人に気軽に触れるものではない。
「アイリン、様子が変ではないか?」
「私は女性らしいこと、と言うのに徹底的に慣れてはおらぬのです……」
申し訳なさげに言う。
なんだろう。
もっと着飾らせたくなる。
普段迷彩カラーの服に顔を汚しているから慣れないが、すっぴんのアイリンは随分な美少女なのだ。
それがヒョウンから逃げまとっている。
もったいなことだと思う。
しばしの時間をかけて、アイリンが降りてきた。
俺は、警戒するアイリンの心を研ぎほぐすように、ここしばらくの出来事を語り聞かせていた。
「不死者殺し、でございますか……」
ポカン、としたように言うアイリン。
「不死者に届かぬミリィがあのクラスだ。ちょっと想像できないよな」
「ええ。しかし陛下ならあるいは。そのヴーンの最後期型と言うのにも、私は太刀打ちできる気がしませぬ。通常のヴーンの方も単騎では無理なのですから」
「そなたは密偵として役に立つ。ああ、私が王になったからには貴族としての立場での密偵も行ってもらおうかな」
しゅばっと天井に張り付くアイリン。
ついつい構ってしまう。
「すまぬすまぬ。しかしそなたが来てくれて助かった。気配探知においてはそなたの方が優秀だ」
「はっ。それに関しては任せていただきたいかと」
「私は部屋の前で待っているから着替えろアイリン。可愛らしいが、その格好では戦えまい。あと、槍は用意してくれたか?」
「ええ、確かに配達しました。後から渡します。着替えますゆえ部屋を出ていただければと……」
素直に応じる。
「あの、陛下!」
部屋を出る扉の前で呼び止められた。
「この花は、陛下から下賜されたものとして受け取っても良いですか……?」
何故だろう。
その一言にどきりとした。
ミリィと相談して本当にうちの子にしてしまおうか。
「好きにせい」
苦笑まじりにそう言って、俺は部屋を出た。
俺は仕事大好きな彼女が、着替えは見られたくないという女性らしい一面も持っていることを喜んでいた。
つづく




