「その時間は取れませぬ」
イリス国に辿り着くと、王は健在なようだった。
ひとまず胸を撫で下ろす。
二人で謁見の間に入る。
話を聞いて、イリス国王は不味いものでも飲み込んだ表情になった。
「不死者殺し、とな」
「はい、そういう噂が出ております、陛下」
「私もターゲットにされる、と思うかね?」
イリス国王はすっかり若返った。
一人称が儂から私に変わっているし、喋る速度も前より速い。
不安げな老人から冷静沈着な王に変貌していた。
俺では答えかねるのでミリィに訊ねた。
「……ミリィ、そなたの意見を聴きたい」
「率直に言えば、陛下は魔力の素養がないから探知される心配はないかと思います。ただ、人の口に戸は立てられぬもの。陛下は不死になったと自ら喧伝された。それが諸国を回り回ってかの者に伝わる可能性はあります」
「ううむ……」
イリス王は唸る。
「王位継承者を決めねばならぬな」
「最初からそれで良かったのでは?」
俺は肩透かしを食らった気分になる。
「決めれば弟王子がいれば反乱の機運も高まったろうが、生憎今は全員異空間の中だ。一人だけ帰還させれば問題あるまい」
淡々とした口調で言う。
「残りの弟殿下は一生仙人の世界で……?」
「正直、政争に利用されるよりはマシな気がしておるよ」
飄々とした口調で言う王。
若返ってみるととんだ化物だ。
「そこで折り行って頼みがあるのだが……」
嫌な予感がした。
「陛下。陛下の折り行っての頼みは一度聞いております。陛下を不老にしてさしあげたでしょう?」
「しかし、今私がいなくなれば国が混乱するのだよ。後のことを万全にするまでに護衛に……」
「その時間は取れませぬ」
ピシャリと言う。
「我妻ミリィは余命幾ばくもない身。その寿命を伸ばすために時間を使いたい。それに私も自国のことがある。いずれは国に帰らねばならぬでしょう。傭兵感覚で雇えると思ってもらわれては困る」
「それもそうだな。そなたの言い分、尤も」
イリス王は悩んでいるらしく顎に手を当て考え込んだ。
「私が折衷案を出しましょうか」
ミリィが口を開く。
「私がこの国の仙人様を連れてくるのです。そうすれば万が一の際には避難できるでしょう」
「ふむ。黄金の林檎の万人だったか。しかしその場合弟殿下のお守りは誰がするのだ?」
「自らなされるでしょう。それぐらいは出来て良い歳だ」
「ふーむ……説得できる感触はあるか?」
「やるだけはやりとうございます」
ミリィの意志は硬そうだ。
仕方あるまい。
「頼んだ、ミリィ」
「はい、旦那様」
上機嫌にミリィは言った。
「何度もすまぬ。そなたらはイリスの恩人だ」
そう言って国王は深々と頭を下げた。
「そう言えばそなたの国の草の者が来ておったぞ。逗留してもらっておる」
「アイリンか」
忍びの少女。
最近少し親しくなった。
「なら、陛下も一人になることはありませぬね。私は安心して旅立てます」
「護衛をつけぬそなたのほうが私は心配だがな」
俺はぼやくように言う。
「大丈夫、いざとなれば空を飛んで逃げれますれば」
「無理だけはするな」
話は決まった。
仙人の説得だ。
つづく




