「不死者殺し?」
その時、俺は気配を察して振り向いた。
莫大な魔力。
ミリィクラスの。
それが、一人の若い水色髪の女性から放たれている。
空間転移魔法?
(……仙人)
そうと察するには十分だった。
「タイプウィッチィの気配が消えてやって来ましたが、時既に遅し。処分してしまいましたか。貴重な過去の文献だったのですが」
穏やかに微笑んで女性は言う。
「……こんな危険物を放置しておくにはいかなかったのでな」
俺は淡々と言う。
「仙人様、ですね」
「ええ。貴女達の国の呼称ではそういう者になるでしょう」
目を閉じて、彼女はそう言った。
「貴女もあの歌を?」
「知っている、と言えば始末しますか?」
俺は剣の柄に手を伸ばす。
「大丈夫ですよ、陛下。冷静になって。布教する気なら既にやっています」
そうだ、あまりの状況に分析を咄嗟に忘れた。
くすくすと女性は笑う。
「ちょっとした意趣返しです。タイプウィッチィの無力化は私にも出来たのですが、あの解錠は私にも出来なかった。大した魔法使いです、貴女は」
ミリィがいなければそもそも解錠出来なかったわけか。
とんだ堅牢なガードだ。
「それで、仙人殿の用事はそれだけですか? 仙人殿程の方なら魔力だけで済んだ後か確認できた気もすしますが?」
「……最近、古い仲間と連絡が取れなくなるケースが増えています」
女性の目が、僅かに憂いを帯びた。
「不死者殺しが、出ているとしか思えない」
「不死者殺し?」
ミリィは目を丸くして言う。
「ありえませぬ。スカーレット様と模擬戦もしたのですが私もとても敵わなかった」
「それなら何故、旧友たちと連絡が取れなくなってしまったのでしょう。スカーレットも言っております。不気味だ、と」
俺達は黙り込む。
次々に死ぬ不死の仙人。
何かが起こっている。
「あるいは、杞憂なら良いのですが……かつての時代に発展した不死の法、それも永遠のものではないのかもしれませんね。老いてきた、と零してそれから暫く経って連絡が取れなくなった者も昔から若干います」
ガイエルなんかがその顕著な例だったのかも知れない。
尤も、彼は頼れる友人がいなかったようだが。
「もしも遭遇するなら貴女達にとっても脅威でしょう。私は確認ついでにこのことを伝えたまでのこと。しかし、タイプウィッチィを撃破できるほどの武、仙人クラスでも解錠できない魔法の鍵を開く魔、二人が揃っていれば安心でしょう」
そう言うと、彼女は手を上げて空間の裂け目を作った。
木造の簡素な小屋が風景に映った。
「では」
そう言って、女性は去っていった。
空間が消える際に、ポツリ呟く。
「いつまで経ってもスカーレットちゃんには敵わないなあ」
二人がどんな関係なのかはわからぬところだが、ひとまず仙人は去った。
腕を組み、ミリィに意見を聞く。
「どう思う?」
「うーん、難問ですね。先程も申した通り、私でもスカーレット様には敵いませんでした。階層を超える思念もスカーレット様の魔術ありきのもの。命を燃やして魔法を使う私がそれなのだから一般の者が達することができる境地とは思えませぬ」
「あるいは、圧倒的な武、か……」
「ヴーン・ウィッチ……仙人様が言うにはタイプウィッチィを倒した陛下のような方なのかもしれませんんね」
ミリィはそう言って、表情を曇らせる。
「イリスの国王陛下が心配だ」
「うん、予定通りイリスに向かおう」
俺達は一旦、城に戻った。
「して、成果はあったか?」
ルポイの王は期待するように言う。
「ヴーン・ウィッチは倒しましたよ。けど、何もなかったです。空箱でした」
ルポイの王は肘おきに肘をついて頭を乗せる。
「で、あるか」
少し落胆したようだった。
「しかし、厄介な遺物を処理してくれたことは幸い。今宵は祝わせてくれ」
ミリィと顔を見合わせる。
「一日ぐらいは良いかも知れませんね」
ミリィは言う。
俺も、苦笑して頷いた。
その夜。
「ハイラル国王陛下、貴方の武勇を歌にして残したい。是非武勇伝を私に歌わせてはくださいませぬか」
「いえ、私が」
「いえいえ私こそ」
美形の男がずらりと列を成して俺の前に並んだのだった。
「ミリィ、お前、本当にこの国好きか?」
小声で囁く俺。
「モテモテで羨ましゅうございます」
からかい混じりにそう言うミリィだった。
「まったくこの国は最初から最後まで……」
ボヤキに始まりボヤキに終わった。
全く合わない国だった。
「読心を使わずとも陛下の心内は読めそうですね」
くすりと笑うミリィ。
それを見て、俺も苦笑して腰を上げた。
「よーし、語ってやろう。俺がいかにブーン・ウィッチを撃破したか。それ使って女を口説くなりなんなり好きにせよ」
照れたように黙り込む彼ら。
漏れ聞こえる小声。
「いや、そんなつもりじゃ……」
「俺達は文化的な側面として……」
ぶつぶつと聞こえてきて戸惑う。
「意外とウブなんですよ、彼ら」
ミリィは滑稽そうに言う。
「……なあ、ミリィ。私にはロマンチストというものがわからん。あるいはレイヴンも本質はこうであるか」
「ミリィは男というものがわかりませぬ」
うーん、やはり社不。
違った人種のことがわからないのだ。
ルポイ国編・完




