「父上におられましては、益々ご健勝であられるようで……次、なんだっけ?」
「父上におられましては、益々ご健勝であられるようで……次、なんだっけ?」
ミリィの言葉に溜息を吐く俺。
「こういうのって、自分の言葉で言うべきだと思う」
俺達は難問に瀕していた。
リーシェの家の修理の代償として、俺達は老王の前で結婚の儀を行うこととなったのだ。
顔を合わせるのは六年ぶりと言うから驚きだ。
そこで問題になるのがこの引きこもり魔女だ。
心が読めるがゆえに自らを封じ込めた彼女。
彼女は読んでしまう。人の意識を。
だから怖がる、人を。
それで引きこもっていたというわけだ。
俺が来るまでは。
「だって、王宮のしきたりがあるのでしょう? 六年前だから、私うろ覚えで……」
「俺が父親だったら、そういうのない方が気楽だと思う」
「クラフト様、大国の第三王子とはとても思えないような物言いですね。来たばかりの頃に比べれば随分砕けた物言いです」
ミリィは膨れる。
俺はその頭をぽんぽんと撫でた。
「緊張するのはわかるよ。ゆるゆるとやっていこう。お前は気を張り詰めすぎなのだ。だから俺に依存し、暴走する」
益々膨れるミリィ。
「わかっています。クラフト様のご家庭にも事情があったことは。それでも、怖いのです。父が私に怯えていることを改めて突きつけられるのは」
「何度経験しても慣れぬか」
「親子ですゆえ……」
俺にはわからない感情だ。
俺は物心ついた頃から親の愛情なぞ諦めていた。
しかし、ミリィには憧憬がある。
「クラフト様と私、どちらが幸福なのでしょう?」
ミリィは俺の心を読んだらしく、上目遣いで言う。
「お前の親父さんの方が優しく思えるが、隣の芝生はなんとやらと言うしな」
「実の娘にすら怯える、臆病な父です」
俯いて言うミリィ。
その頭を、撫でた。
「今日はこのぐらいにしておこう。晩飯を運んでくるよ」
その服をはっしと掴み取る我が細君。
「またリーシェちゃんのところへ行く気でしょう!」
「心を読めと言っている! 詫びに手土産でも持って寄ろうとしただけだ!」
「殿方って随分気が多い!」
「それはお前のステレオタイプな思い込みだ!」
喧々囂々としつつ部屋を出た。
ま、たまには一人にしておくか。
頭も冷えるだろう。
歩いていくと、リーシェが、地下通路の入口でこちらを覗き込んでいるのが見えた。
「……怒号が飛び交っているのが聞こえたので、近寄りがたくて」
「お前も怖いのか? ミリィが」
リーシェは申し訳なさげに俯く。
「正直、魔術を殺す式をも力技で打ち砕く彼女の魔力は脅威です。しかも、まだ子供。力に心が追いついてきていない。正直、この前はクラフト様がいなければ私は命を落としていたでしょう」
「俺がいなきゃそもそも襲撃されてないぜ。リーシェも災難だったな」
そう言ってぽんぽんと肩を叩く。
抓られた。
「そう気安く貴婦人に手を触れない」
「すいません」
その時、油断していて炎で尻を焼かれた。
ミリィだ。
思わず睨み返す。
「ズボン、台無しですね。王宮で取り替えましょう。私の家は生憎あの有様なので」
「またあの繰り返しになったら困るぜ」
さてはて、こんな調子で本当に謁見なんて叶うのだろうか?
我が細君は少々心が病んでおられるようだ。
つづく




