「魔術を殺す式です」
「ガエリオ!」
そう叫ぶリーシェ。
その前方に透明な硝子のような板が浮かび上がる。
八俣の蛇はそれに掻き分けられるように後方へと散っていった。
「それは?」
呆気に取られながら言う。
「ガエリオ。魔術を殺す式です。王家の秘蔵の魔法で習得も困難だ」
「なるほどね」
魔術を基礎しか教えないと言ったが、その上でこの無効化魔法。
強大な応用と無効化を手にすることで防衛力を高める。
しかし、周囲の壁は完全に溶解していた。
「王女殿下、気をお沈めください! リーシェです。子供の頃一緒に遊んだリーシェですよ!」
「リーシェ……なんで貴方がクラフト様の下にいるの? クラフト様は私のものなのに」
そう言って我が細君は頭に手をやる。
「ああ、イライラする」
再び放たれる炎。
「ガエリオ!」
それはさながら氷と炎の対立のような。
しかし氷側がじわじわと欠けていく。
「馬鹿な、魔術無力結界が!」
焦りが滲むリーシェの声。
このままじゃリーシェを巻き込む。
俺は覚悟を決めた。
その瞬間、細君が唖然として魔法を解く。
その時には俺はすぐにリーシェの肩を踏んで、即座に細君の傍に飛んでいた。
「なんて、瞬発力……!」
唖然とした細君を抱きとめる。
相手が空中に浮いてるから、こちらも浮いているようなものだ。
「こら」
そう言って相手の頭を小突く。
「駄目でしょ、こういう事やったら」
細君の顔がくしゃ、と歪む。
「だって、怖かったの! 皆が私から引いていったように、クラフト様も引いていかないかと!」
「俺達一蓮托生だろー?」
細君は俺の胸に手を当てて本格的に泣き始めた。
「ほら、皆にごめんなさいするんだ。お前、益々怖がられるぞ、これじゃ」
こくりこくりと頷く細君。
「後、君の名前を聞いても良い?」
艷やかな唇が耳元で言葉を紡ぐ。
「ミリアリア」
「そっか。結婚するか、ミリアリア」
膨れるミリアリア。
「今更ですよ」
その頭をワシワシと撫でる。
「まずはごめんなさい、だ」
その日、俺達夫婦はリーシェに深々と頭を下げた。
リーシェの計らいで家は内々に修理されることになり、雨間のことということもあり目撃者もいなかった。
「やっと外に出れたね、ミリィちゃん。クラフト様効果かな?」
苦笑交じりに言うリーシェ。
ミリアリア、いや、ミリィは泣き始めた。
そうだ、彼女はついに外に出た。
恐怖に打ち勝ち、自分の力に負けずに。
暴走はしてしまったものの、彼女の心が、徐々に、徐々に、自縛を辞めつつあるのを感じた俺だった。
つづく




