「私も陛下も相当不器用です」
「ガイエル!」
俺は唱える。
ミリィから伝授された最強防御結界。魔法を殺す式。
硝子状の壁が展開し業火から俺を守る。
しかし悲しいかな、俺の魔力量はミリィほどではない。
(数秒の足止めが限界か!)
即座に神通力で後方へ飛ぶ。次の瞬間、さっきまで俺が居た場所で火柱が起こった。
(ミリィほどではないが……こんなのが量産されてたってんだから驚嘆だな。リディ軽く十人分か)
次々に火球が飛んでくる。それは一個一個が火柱へと変わる時限式の火薬なのだ。
次々に跳躍してその隙間を縫って、相手に肉薄する。
勝てる!
そう思った瞬間、相手の眼の前の空間が歪んだ。
(空間湾曲魔法!?)
危ないと思ってとっさに地面を蹴って上空へと飛ぶ。槍の穂先が歪みに飲み込まれて削れた。
(ミリィですら溜めがなければ使えない。ふむ、厄介だな。さて)
そこで俺は、槍を投擲する。
穂先の欠けた槍は糸で俺の体を運ぶ。
(互いの手札はある程度見えてきた。どう組み立てる?)
分析が始まる。
どんな魔も武も空間湾曲魔法の前には無力だろう。
槍を投じて、魔法の松明を時間差で投じる。
槍は消滅したが、魔法の松明は相手に肉薄した。
結論は、出た。
勝つ方法は、一つ。
しかし、成し得るか? 俺の力で。
否。
イメージするんだ。最速で移動する自分を。
俺は短剣を投じると、それからワンテンポ遅らせて地面を蹴った。
その瞬間、空間が歪んだ。短剣が消滅し、空間湾曲魔法も消える。
このクールタイムが要だ。
勝つ条件、それは再度空間湾曲魔法の発動前に相手を叩き切ること。
しかし、再び空間が湾曲する。
空間湾曲魔法の発生の方が先か!?
と思ったのは一瞬のことだった。
俺の速度は空間を歪める域に達し、ヴーン・ウィッチの胴体を真っ二つにしていた。
(ふむ、神通力はイメージ、か。我ながら分の悪い賭けであった)
頭上から拍手が起きる。
さっきから感じていた。
ミリィの気配。
俺は咎めるように言う。
「魔力探知を使ったのだな、命を削る規模で」
「いえ、それは陛下に止められておりました。地図を頂きました」
そう言って杖に乗って紙をひらひらとさせるミリィ。
俺はほっと安堵する。
「なら、良い」
ミリィはゆっくりと降りてくる。
すると、俺の顔に衝撃が走った。
頬を張られたのだ。
「なんでこんな無茶をするのです! 二人ならば、あんな無茶をせずとも空間湾曲を無効化出来たでしょうに!」
ミリィは、泣いていた。
驚いた。
ミリィが俺を打つのも、ここまで大泣きするのも、初めてだ。
「……そなたの命が大事だからだ」
「私と陛下は二体同心! 死ぬ時は一緒です!」
「しかし、そなたが命を削ってまでやることではない。それは亭主である私の役目だ」
苦笑交じりに言う。
ミリィは眉間に皺を寄せる。
「だから、イリスの王族も、ヴーン・ウィッチも、自分一人で対処できる範囲でしようと?」
俺はそっぽを向いて、黙り込む。
ミリィは顔を覆って崩れ落ちた。
「私も陛下も……相当不器用です」
「この国の詩人達のように、そなたの心を揺さぶれればどれほど良いだろうかと思う。生憎、そなたの言う通り不器用に出来ている。社不ゆえな。今回も、素直に語れば、そなたは絶対についてきて、また王都奪還の時のように命を削ると思ってしまったのだ。情熱的で上手い言葉は出てこないと思ったのだ」
「まったく、社不同士が結婚したらこんなものですか」
溜息混じりに言うミリィ。
少し落ち着いてきたようだ。
俺は手を差し出す。
それを、ミリィは払った。
そして、目元を赤くしたまま俺をきっと睨む。
「今度からは、ミリィが必要だと言ってくださいまし! 一人ですべて背負わないでください! 我々は夫婦であり主であり従! 従ってもらいます!」
体が重くなった。
これが魔力的契約。
従わなければ圧力に負ける。
魔力比べなら俺の負けだ。
「……軽はずみな契約などするものではないな」
天を仰ぐ。
いくら策略を練ろうとも、感情的な面で離婚と言う選択肢だけはなかった。
何より、ミリィの魔力探知もなしに長寿の術を探すなど途方もない話だ。
「お前が必要だ、ミリィ。今回は正直危なかった。一国の王がすることではない」
「それで良いのです」
ミリィは赤い目元で、微笑んだ。
太陽を連想した。
彼女の目が空のように青いからだろうか。
そこまで考えて思った。
(俺も結構ポエムチックだ)
やれやれと溜息を吐き、ミリィと手を繋いだ。
「仲直りですね、陛下」
「ああ。喧嘩した覚えもないのだがな。そうか、心が読めねばすれ違いも起こるのだな」
「これからは伝えましょう。言葉で」
「ああ、そうだな。私も少しは素直になろう」
かつて、読心と言う能力の下に成り立っていた俺達の関係。
それが人間らしくなった瞬間だった。
「さて、古代の書物。多分古代技術の物だから大丈夫だと思うが、無事残っているか確認してみるか」
ミリィは涙を拭って頷く。
俺達は、ヴーン・ウィッチが守っていた場所へと赴こうとしていた。
つづく




