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放浪王子と引きこもり姫の追放社不結婚  作者: 熊出
第六章・成人期ルポイ国編

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「私も陛下も相当不器用です」

「ガイエル!」


 俺は唱える。

 ミリィから伝授された最強防御結界。魔法を殺す式。


 硝子状の壁が展開し業火から俺を守る。

 しかし悲しいかな、俺の魔力量はミリィほどではない。


(数秒の足止めが限界か!)


 即座に神通力で後方へ飛ぶ。次の瞬間、さっきまで俺が居た場所で火柱が起こった。


(ミリィほどではないが……こんなのが量産されてたってんだから驚嘆だな。リディ軽く十人分か)


 次々に火球が飛んでくる。それは一個一個が火柱へと変わる時限式の火薬なのだ。

 次々に跳躍してその隙間を縫って、相手に肉薄する。


 勝てる!

 そう思った瞬間、相手の眼の前の空間が歪んだ。


(空間湾曲魔法!?)


 危ないと思ってとっさに地面を蹴って上空へと飛ぶ。槍の穂先が歪みに飲み込まれて削れた。


(ミリィですら溜めがなければ使えない。ふむ、厄介だな。さて)


 そこで俺は、槍を投擲する。

 穂先の欠けた槍は糸で俺の体を運ぶ。


(互いの手札はある程度見えてきた。どう組み立てる?)


 分析が始まる。

 どんな魔も武も空間湾曲魔法の前には無力だろう。


 槍を投じて、魔法の松明を時間差で投じる。

 槍は消滅したが、魔法の松明は相手に肉薄した。


 結論は、出た。

 勝つ方法は、一つ。


 しかし、成し得るか? 俺の力で。

 否。

 イメージするんだ。最速で移動する自分を。


 俺は短剣を投じると、それからワンテンポ遅らせて地面を蹴った。

 その瞬間、空間が歪んだ。短剣が消滅し、空間湾曲魔法も消える。

 このクールタイムが要だ。

 勝つ条件、それは再度空間湾曲魔法の発動前に相手を叩き切ること。

 しかし、再び空間が湾曲する。

 空間湾曲魔法の発生の方が先か!?


 と思ったのは一瞬のことだった。

 俺の速度は空間を歪める域に達し、ヴーン・ウィッチの胴体を真っ二つにしていた。


(ふむ、神通力はイメージ、か。我ながら分の悪い賭けであった)


 頭上から拍手が起きる。

 さっきから感じていた。

 ミリィの気配。


 俺は咎めるように言う。


「魔力探知を使ったのだな、命を削る規模で」


「いえ、それは陛下に止められておりました。地図を頂きました」


 そう言って杖に乗って紙をひらひらとさせるミリィ。

 俺はほっと安堵する。


「なら、良い」


 ミリィはゆっくりと降りてくる。

 すると、俺の顔に衝撃が走った。

 頬を張られたのだ。


「なんでこんな無茶をするのです! 二人ならば、あんな無茶をせずとも空間湾曲を無効化出来たでしょうに!」


 ミリィは、泣いていた。

 驚いた。

 ミリィが俺を打つのも、ここまで大泣きするのも、初めてだ。


「……そなたの命が大事だからだ」


「私と陛下は二体同心! 死ぬ時は一緒です!」


「しかし、そなたが命を削ってまでやることではない。それは亭主である私の役目だ」


 苦笑交じりに言う。

 ミリィは眉間に皺を寄せる。


「だから、イリスの王族も、ヴーン・ウィッチも、自分一人で対処できる範囲でしようと?」


 俺はそっぽを向いて、黙り込む。

 ミリィは顔を覆って崩れ落ちた。


「私も陛下も……相当不器用です」


「この国の詩人達のように、そなたの心を揺さぶれればどれほど良いだろうかと思う。生憎、そなたの言う通り不器用に出来ている。社不ゆえな。今回も、素直に語れば、そなたは絶対についてきて、また王都奪還の時のように命を削ると思ってしまったのだ。情熱的で上手い言葉は出てこないと思ったのだ」


「まったく、社不同士が結婚したらこんなものですか」


 溜息混じりに言うミリィ。

 少し落ち着いてきたようだ。


 俺は手を差し出す。

 それを、ミリィは払った。

 そして、目元を赤くしたまま俺をきっと睨む。


「今度からは、ミリィが必要だと言ってくださいまし! 一人ですべて背負わないでください! 我々は夫婦であり主であり従! 従ってもらいます!」


 体が重くなった。

 これが魔力的契約。

 従わなければ圧力に負ける。

 魔力比べなら俺の負けだ。


「……軽はずみな契約などするものではないな」


 天を仰ぐ。

 いくら策略を練ろうとも、感情的な面で離婚と言う選択肢だけはなかった。

 何より、ミリィの魔力探知もなしに長寿の術を探すなど途方もない話だ。


「お前が必要だ、ミリィ。今回は正直危なかった。一国の王がすることではない」


「それで良いのです」


 ミリィは赤い目元で、微笑んだ。

 太陽を連想した。

 彼女の目が空のように青いからだろうか。


 そこまで考えて思った。


(俺も結構ポエムチックだ)


 やれやれと溜息を吐き、ミリィと手を繋いだ。


「仲直りですね、陛下」


「ああ。喧嘩した覚えもないのだがな。そうか、心が読めねばすれ違いも起こるのだな」


「これからは伝えましょう。言葉で」


「ああ、そうだな。私も少しは素直になろう」


 かつて、読心と言う能力の下に成り立っていた俺達の関係。

 それが人間らしくなった瞬間だった。


「さて、古代の書物。多分古代技術の物だから大丈夫だと思うが、無事残っているか確認してみるか」


 ミリィは涙を拭って頷く。

 俺達は、ヴーン・ウィッチが守っていた場所へと赴こうとしていた。



つづく

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