「わからないわけです」
その日、俺は案内された遺跡に足を踏み入れた。
リーシェに伝授された魔法の松明を作り出す。
魔法の方は筋が良いと言われていたのだ。
その才能を遺憾無く発揮し、いくつかの魔法を習得している。
一本道だった。
細く薄暗い一本道の奥に、光が差し込んでいる。
美しい。
そう思った。
慌てて魔力を消し、気配も消す。
魔力の消し方はアイリンに習った。
あの無骨なヴーンと同一個体とは思えない。
女神像のようだ。
その女神像の目が、赤く輝いた。
「魔力探知に引っかかったか。相当高精度なようだ」
ぼやくように言って剣を抜く。
そして、今の俺にはレイヴンの武が叩き込まれている。
どれだけ肉を食い、どれだけ筋力トレーニングをし、どれだけ神通力を高めたかわからない。
レイヴンは言った。
「魔法とはイメージ、即ち、神通力もイメージだ」
そして、言い放った。
「限界を決めるのは陛下、貴方だ」
今の俺は、様々な人間の技能を取り込んだ集合体と言えた。
ギフト、策謀による分析力を駆使した結果の技術の吸収だ。
ここでは通路が狭い。直線上にいるのはまずい。
そう思い、相手の行動パターンにないだろう行動をとってみた。
前に向かって、飛び出したのだ。
魔力が展開される。
氷の矢が幾重にも襲ってくるのを、俺は仕込み槍を展開すると、ヒョウン仕込みの槍さばきで砕いていった。
「ヴーン……ヴーン……」
ヴーン・ウィッチは唸り始める。
ほくそ笑む。
「小型化には成功したが機構そのものはそれほど進歩しなかったと見える」
俺は相手に接近すると、そのまま頭上の空へ向かって跳躍した。
上空に槍を投擲し、結びついた糸で自らの体も空に運ぶ。
そして、地上戦が始まった。
+++
魔力探知をしてはいけない、とクラフトに強く言い含められている。
どうも魔力探知先が命を削らないと測れない範囲にあるらしい。
思えば、この旅に出てからクラフトは何処かおかしかった。
それが顕著に出たのはイリス国だ。
彼は哀れな老王を見捨てようとした。
以前の彼なら絶対にありえなかったことだ。
何故? と言う思いが最初に沸いたのはその時だ。
その時は、笑って流した。自分がどうにかすれば良いと思った。
けど今回に至っては置いていかれてしまった。
部屋の扉が空いた。
色白の美青年が入ってきた。
「私がお話相手をさせていただきます」
そう、恭しく礼をする。
「ルポイ第一王子、ヴォイドと申します」
「いかつい名前ですね」
「似合わない、と思ったでしょう」
微笑むヴォイド。
「貴女の力は知れ渡っている。私も人の心を読む術を持っている」
そう言って、彼はカードを取り出した。
魔術敵儀式に使うものだ、となんとなく知れた。
「戯れに披露しましょう」
そう言って彼はカードを並べ始めた。
そうして並べ終えると、一言言った。
「随分もどかしい思いをなされている、という相が出ました」
「当たってます」
前のめりになって言う。
「もしかすると、ご亭主の戦力になりたいのでは?」
「当たってます」
「けど、貴方は連れて行ってもらえなかった」
自分と同じようなギフトを持つ彼になら、話しても良いか、と思い始めた。
「わからないのです、亭主が」
淡々とした口調で言う。
「この前の国では、哀れな老王を救うことよりも先に進むことを望みました。この国でも、私に戦いを望まない。焦れるのはわかりますが、納得がいきません。我々はオーヴァ神の下に誓いを交わした運命共同体です」
「ご亭主には伝えましたか?」
ヴォイドは優しく言う。
ミリィは黙り込む。
「わからないわけだ」
ヴォイドは淡々とした口調で言う。
「人の心を伺う力があるとついつい忘れがちになります。言葉にしないと人はわかりあえない。そんな単純なことを」
ああ、そうか。
「わからないわけです。けど、貴方が遣わされた理由はわかりました」
そう言って微笑むと、ミリィは壁に立てかけてあった杖を掴んで歩き出した。
「ありがとうございます。亭主と二度目の夫婦喧嘩してきます」
「一度目もあったので?」
「酔ってベロンベロンになって恥ずかしい台詞を酒場で叫びまくったそうで。あの時は幻滅したものです」
「今は?」
「私の自慢の旦那です。今現在はちょっと、疑わしいけど」
そう言って、ミリィはさっそうとその場を後にした。
つづく




