「私も追いかけてほしいと思う時もありますれば」
「なんだかんだできっちり情報は仕入れてきたのだな、そなたは」
クラフトは機嫌を直したように言う。
「はい、読心が役に立ちました」
微笑んで言う。
(貴方の心はさっぱり読めなくなったけど)
それがお互いの距離を保つためのことだとミリィも理解している。
しかし、この国の熱烈な男達を見ていると少々不安になる。
クラフトが心の内でなにを考えているのか。
ミリィにとって、傍にいる人間の心の声は嫌でも聞こえてしまうものだった。
クラフトともそれで揉めたことは数度ある。
だから適切な処理だ。
わかってはいる。
それでも、不安になったのだ。
「私も追いかけてほしいと思う時もありますれば」
ぽつり、呟くように言った。
けれどもその小さな呟きは、風に吹かれて消えていった。
意外なことに、王都についてみると国王は厳格な人だった。
「嘆かわしい」
そうルポイ国王は苦々しげに言う。
「いくら歌の国と言ってもこの国でここ数年流行っているのは愛、愛、愛。愛の歌ばかりだ。年中発情期か貴様らは。嘆かわしい」
「流石陛下、私と気が合うようだ」
クラフトは得たりとばかりに頷く。
「愛があるセックスをしたいと酒場で歌いまくってたのは誰でしたかね」
クラフトだけに聞こえるように小声でぽつりという。
ちなみにスカーレットの教えによれば人間は年中発情期なのだというからそれを知ればクラフトはどんな顔をするだろうと思う。
「私も若かったのだ」
クラフトも小声で言う。
「なにか国の者がハイラル国王殿に迷惑を駆けていなければ良いのだが……」
「いえ、有益な情報をいただきました」
ミリィは口を挟んだ。
「ここに、寿命に関する歌があると」
「ふむ、その件か」
ルポイ国王はふむふむと頷く。
「あれは随分前の王が封印した」
ミリィはクラフトと顔を見合わせる。
「危険な歌だったので?」
「魔力が込めて歌えばそうなのかもしれないが、あいにく我が国は西方のような魔力に疎くてな。息子がその分野に興味があって復興に乗り出しているが生憎進んではいない」
そりゃその分野がない分料理や歌が発達するわけだと思う。
素晴らしい国になってくれたものだ。
「ただ、それを信じたものによってクーデターが幾度となく引き起こされた。それを苦々しく思った何百年前かの先祖が封印したのよ。ヴーン・ウィッチを配置してな」
「ヴーン……ウィッチと言いますと?」
クラフトが不思議そうに問う。
「通常のヴーンなら我々も倒したことがあります。しかしヴーンウィッチというのは初めて聞く」
「多分そなたらが倒したのはヴーンソルジャーだろう」
「かなり初期型の機体だと聞いております」
ミリィの言葉にルポイ国王は得たりと頷いた。
「その最後期型の機体。ヴーンの身体能力を魔力に転嫁したタイプだな」
「ふむ」
クラフトは腕を組んで、唸った。
そして、一人立ち上がった。
「私一人で攻略してきます。この数年で腕は磨いた。それを試したい。我が細君をお願いします」
「ちょっとちょっと、陛下!」
ミリィは叫び出したいような気分になる。
「それはないでしょう? 私達、二体同心。主にして従。契約を交わした仲ではないですか」
「けど、そなたはこの国に随分愛着があるようだ。暫く骨を休めてはどうかな?」
優しい言葉で言う。
それが、嫌味のように聞こえてイラッときたミリィだった。
「私は寿命に関する歌があるか独自に調べる」
「わかりました、私も陛下なんて知りません」
「おいおい……」
困惑したように腰を上げるルポイ国王。
「陛下、そのヴーンウィッチの居場所、教えて頂けますか。それとも王国管轄のため破壊は避けたほうが宜しいか?」
「いや、今となっては厄介な遺物だ。破壊してくれて構わんが……本当にあれとやるのか? この国の兵士一個小隊をまたたく間に殲滅した化物だぞい」
「劣勢にこそ英雄は輝く。我が国の英雄の言葉です。私もそうありたい」
(貴方も存分に英雄ではないですか。それに貴方のギフトは策謀。人を駒として使うギフトです)
もどかしい思いをしながらミリィは口をふさぐ。
クラフトのことなら十分に知っている。
クラフトの活躍も、クラフトの才能も。
けど、クラフトの心がわからない。
困惑してしまったミリィだった。
結局、クラフトは案内一人を連れて旅立った。
後には、ミリィ一人が残された。
(……たまには、ミリィも、頼ってほしい時があるのです。たまには、ミリィも、追いかけられたいのです)
わからない。
通じない。
届かない。
もどかしさだけが残った。
つづく




