「リーシェ殿とミリィ様の男性論は食い違っております」
ミリィがアイリンの気配を読み取ったらしく駆け足で帰ってきた。
「アイリンー! 一ヶ月ぶりぐらい? 相変わらずの健脚だねー」
そう言ってアイリンを包容する。
「んじゃ、俺用あるから出てくるから。なんか情報あった?」
「なんですか、陛下、男の嫉妬は見苦しいですよ」
「見苦しいのは子供も亭主もいるのに男にちやほやされて喜んでいるお前だ」
そう言い捨てて、国王クラフトは出ていった。
「ミリィ様、苦しゅうございます」
アイリンはそう言って苦笑する。
「ごめんごめん。情報は得たんだ。王家に寿命に関する歌が伝わってるって。詩的な表現だったから読解するのにちょっと時間かかったけど」
「ここの詩人の言葉は哲学者の言葉のように難解です。アイリンはその分野に疎い。ミリィ様は理解しておられるのですね」
「心読めるからね。熱意で人を感動させようとしている。素晴らしい国だ」
しみじみと言う。
「国王陛下が聞いたら怒り狂いますよー」
「これはレイヴン様の言だからどこまで信憑性があるかわかんないんだけどね」
そう前置きして、ミリィは言う。
「男は追いかけさせるぐらいが丁度いい。男は安心させると手を抜く。なのだそうよ。そうなのかもなーって思う面もあってね」
「リーシェ殿とミリィ殿の男性論は食い違っております」
アイリンはおずおずと言う。
「リーシェの男性論か、聞いてみたいな」
「リーシェ殿が言うには、男は膝枕を求めている、と」
「膝枕……」
珍妙な顔になるミリィ。
「国王陛下は多忙な方です。今でこそ心内をあかせる仲間も増えましたがそれでも王は孤高であるもの。その王が唯一心を休まらせる場所が妻の膝枕なのだと」
「じゃあ私の膝枕は誰が担当してくれるんですか」
ミリィは不思議そうに言う。
「陛下に頼めば良いのではないでしょうか。今回のミリィ様の策は失策に思えます。ケースバイケースです。レイヴン様のような手合いには確かに餌をやってはいけませんがクラフト様は一途な方だ。そのうち拗ねますよ?」
「うーむ。若年者に窘められてしまったか」
ミリィは腕を組んで言う。
「魔術の方は随分極めたつもりだったけど男女道というのは奥深いものだなあ」
「私としては一生縁遠い存在であってほしいものです。私は陛下に仕えるのが楽しいので」
「じゃあ陛下と結婚したらー? 私、そのうちいなくなるよー」
「お、お、お、恐れ多い! そればっかりは御免を!」
「案外似合うと思うけどな。アイリンちゃんは昔の私みたいに健気だ」
「この国に来てからミリィ様の様子はおかしいように思います……」
呆れて、ぼやきが出たアイリンだった。
「落ち着かないのよね。今までは読心であの人の心が読めた。けど、今は読めないようになったから」
そう呟くミリィの言葉は少し寂しげだった。
クラフトが帰ってきた。
アイリンはなんだか意識してしまって、背筋を伸ばして胸に手を置く。
「では、アイリン、任務を果たしたので帰路に付きます!」
「ゆっくりしてけよー、たまにの交流だ」
「お、お、お、恐れ多いー! おさらば!」
アイリンは全速力でその場を後にした。
この後の二人の進路は聞いた。
王都だという。
つづく




