「昔は良かった」
「昔は良かった」
俺はぼやくように言う。
「ミリィには俺しかなかった。俺がミリィの全てだった。それが今やこのザマだ」
ミリィはるんるんで外出していった。
情報収集のためと言っていたが賛美されるのが楽しくて仕方ないらしい。
久々に会うアイリンは俺の発言を聞いて苦笑顔だった。
「ミリィちゃんの幸せを見守る会も順調に会員を増やしております」
「……感情が失せたように見えるけどあいつも結構情に厚いままなんだな……」
遠い目をして言う。
本当に宗教化しないか心配だ。
その時はその時でミリィを不老長寿にしてその総帥に据えるのも良いのかも知れない。
「皆、変わりました。リーシェ殿の感情は読みづらくなり、リディ殿には貫禄が付き、レイブン様には老いが見え、まあ少々ウザくなった男もいますが……」
そう言ってアイリンは視線を伏せる。
一瞬自分のことかと思ってヒヤッとしたが主にそんな口をきく少女ではない。
ヒョウンのことだろう。
彼女は苦笑して続ける。
「陛下は私のようなものにまで感情を吐露してくださるようになった」
「付き合いが長くなったから言うのだ。レイヴンが聞いたらしたりヅラだろうな」
天を仰ぐ。
「して、妃陛下の残り寿命は」
「知らされておらんのよ」
俺はまたボヤキ節だ。
「俺の半分しか生きれぬだろう。その一点張りだ。もしかして俺が思うより短いのかもしれないと思って、たまにゾッとする」
「困りましたね。リーシェ殿に帰る目処をそれとなく調べてくれと言い含められているのですが」
「最長で五年、かな」
呟くように言う。
現在の貴族の平均寿命は五十歳。
女性の方が寿命が長い傾向があるがあと五年も経てばミリィも二十代後半だ。
そこまで行って駄目なら、親族との交流を最後に取る時間が必要だろう。
「息子にも、実の母の顔を知らぬ子になっては欲しくない。私もそうだった」
ぽつり、吐露する。
「誰にも言うなよ。妻と実家の一部の人間しか知らぬ」
今は国、と言えば王を務めているハイラルのことになるので、母国を指すため実家と言ってみた。
アイリンは微笑んで胸に手を置いた。
「信頼の証と受け取りました。アイリンは嬉しゅうございます」
「そうだ。そなたに愚痴を聴かせた詫びをしよう。この国はなにかと物理的な技術が発展していてな。食事処も多いのよ」
「申し訳ないのですが、それは……」
アイリンは縮こまる。
「この国に来てから、外見を褒める歌を朗々と捧げられること五回。それで懲りて、それきり気配を完全に消しております」
「……わかった。私が注文して持ってこよう」
苦笑交じりに言って立ち上がる。
「そんな! 陛下にそんなことをさせたと知ればリーシェ殿が怒髪天になるでしょう!」
「たまには私にも部下を労わせろ。リーシェ付きではあるが私にとってもそなたは可愛い部下だ」
アイリンが頬を初めて言う。
「……陛下も随分キザでございます」
もうやだ、この国来てから女連中皆変。
つづく




