「キザ男の巣窟だ……」
「イリス国から行ける場所は八カ国あったなんでこの国を選んだのです?」
ミリィが今更ながら不思議そうに問う。
「少し思い当たる節があってな。ここはルポイ。歌の国だ。レイヴンが言うには不死に関する歌もあるという」
「不死の歌、でございますか」
「ああ。私も多少だが歌は歌えるぞ」
「知っております。陛下のドラゴンの涙事件の顛末はミリィの心に深く刻み込まれております」
「忘れろ」
「陛下の数少ない失態です。しっかり覚えておかねば次の失態の時にがっかりしてしまいます」
バランスが取れているのか、取れていないのか。
昔はヤンデレだったミリィも今ではすっかり自立している。
「では、王都へ急ぎましょうか。また早馬でも借ります?」
「今の私なら走ったほうが速いな。抱えて走ってやろうか?」
悪戯っぽく言う。
「そんな昼間からひっつくのも変な話。馬を借りましょう」
そう言いつつもまんざらではなさそうだ。
「俺達ら相思相愛だよなーミリィ」
そう言って肩を組む。
「だから昼間っからベタベタする気は……もうミリィは抵抗する気も失いました」
苦笑するミリィだった。
「馬も仙人に習ったのか?」
「然り。けど、歌は習いませんでしたね。想定の範囲外です」
「そこまで習う時間はなかっただろうしなあ」
あの時あった猶予は一ヶ月。
その一ヶ月でガエリオと空間屈折魔法まで覚えたのだから大したものだ。
「さて、村が見えてきたな」
そう言って離れる。
そして、コホンと咳。
「私もハイラルの恥とならぬよう心がけよう」
「愁傷な心がけです」
苦笑交じりに言うミリィだった。
村の前で衛兵が立っている。
その傍に歩み寄ろうとした時のことだった。
歩み寄る影があり、俺は剣に手を伸ばした。
「敵ではありません」
相手の思念を察しとったらしく、妻が穏やかに言う。
しかし苦笑した。
「しかし、ここは少々キザな方が多いようだ」
「美しいお嬢さん、貴方のために一曲歌わせてくれませぬか?」
妻の前に傅いた男はそう言った。
「いいえ、私には主人がいるので」
やんわりと苦笑するミリィ。
「いえ、承知の上です。その上で褒め称えたい。貴女の美貌を!」
「まあ」
ミリィは頬を染める。
あ、こういうのに弱いの、お前。
意外ー。
男は朗々と歌い始めた。ミリィの美貌を褒め称える歌を。
髪は黒曜石瞳は蒼玉のよう佇む姿は可憐な君影草。
歯の浮くような美辞麗句。
それは歌というよりは詩だった。
「あー、ミリィ」
「なんでしょう旦那様」
下手ではないオペラのような歌声を聞きながら訊ねる。
「ここってこんな調子? ずっと?」
「ええっと……寿命を削らぬ範囲の魔力探知で調べた結果では、三割ほど」
俺は頭痛がしてきた。
「キザ男の巣窟だ……」
「素敵ではないですか」
「マジかよ」
先行きが思いやられる俺だった。
つづく




