「これで思い残しはないか?」
「そうか……息子達が……」
髭を剃った王は白髪頭を撫でた。
沈んだ様子だった。
それはそうだ。息子達の叛意がわかったのだ。
沈まぬわけがない。
「あれは私の育て方も悪かった。派閥を作らせてしまった。私は強い力を持つ王ではない。どうしても貴族には甘えねばならぬ」
「致し方ないことと思いますれば」
ミリィが申し訳無さげに言う。
「して、息子達は今何処に?」
「牢に入れるのも憚られるでしょう。私が仙人に預けてきました」
俺は言う。
「頭が冷えた頃には成長して戻ってくるでしょう」
淡々と告げる。
「そうか……」
イリス王は深々と玉座に身を沈めた。
「どの道、内乱は起きたのだな。そなたらが、来なければ」
沈黙が場を包んだ。
そこには、やりきれない感覚が残った。
城を後にする。
どうも今回の俺達の働きはイリス国で英雄譚として語り継がれるそうだ。
まあ大半はミリィの働きだが、俺の武を活かす日もそのうちやってくるだろう。
長い旅だ。ミリィ一人では対処できないような条理の外の存在と出くわすこともある。
「陛下は見捨てる気だったので?」
ミリィがからかうように言う。
「……その国のことだ。自身で言う通り王は力がないのだろう。こうなるとどの道貴族は力をつけていく」
俺は一度だけ振り返る。
「いつかは破綻する国だ」
「私はイリス王を信じておりますれば」
上機嫌に言うミリィ。
「きっと、長く平和な時代が訪れるでしょう」
俺はジト目でそれを見る。
「そなた、さてはあの老王に自身の父親を重ねたな?」
ミリィは気まずげに押し黙って返事をしなかった。
溜息を吐く。
「これで思い残しはないか?」
「はい。私の我儘に付き合ってくれてありがとうございます」
「あの王に食べさせるぐらいなら自分の父親にとっておいてやれば良かったろうに」
「父上に娘や孫の死を看取らせるのは心が痛みます」
平然と言うミリィ。
「他人の家なら良いのか?」
とぼけたように言う。
ミリィは苦笑する。
「あの方は、すべて覚悟の上でした」
それは予想外のことだったので俺は黙り込んだ。
「あれはあれで、考えた末のことなのですよ、陛下。子を思う親の気持ちも様々です」
「……で、あるか。私もまだまだだな」
「ええ、陛下はお若い。若いうちに国に帰りましょうね」
「そうさな。息子に顔を忘れられんうちに帰らなきゃならん」
「あー、私、それが一番怖いかも……」
不安げに言うミリィの肩を叩いて、俺達は階層を抜けた。
次の国へ。
イリス国編・完




