「私には読めるのですよ」
ミリィがイリス王に黄金の林檎を差し出す。
イリス王がわなないた。
「おお、まさか本当に持ってくるとは……」
「正真正銘の本物です。千年に一度の果実、ご賞味あれ」
ミリィは優しく微笑んで、イリス王に林檎を手渡す。
イリス王はゆっくりと、しかし噛みしめるように、林檎を食べた。
しばしの時間をかけ、すべて咀嚼する。
その瞬間、劇的な変化が起こった。
皺が消えていく。背筋が伸びる。小さくなっていた体躯が大きくなる。
老齢だったイリス王が若々しい青年になった。
どよめきが起こる。
「おお……私は不老になったのか」
声も若い。
白髪と白髭以外は青年そのものだ。
「ええ、私が保証しますれば。これで家督争いも永遠に起こりませぬ」
ミリィはそう太鼓判を押した。
「では、通行手形を発行して頂けますかな?」
俺は冷静な口調で言っていた。
「そう急ぐことはあるまい! 祭りでも開いてそなたらを歓待したい! それに儂の不老の祝いもせねばな。国民達に知らしめねばなるまいて」
「そうですよ、陛下。少しゆっくりしましょう」
ミリィがのんびりした口調で言う。
「しかし、目的のものはないとわかったのだしな……」
「大臣、大臣、急ぎ参れ!」
そう言って駆けていくイリス王。
俺は苦い顔でミリィに小声で話しかけた。
「そなた、内政干渉する気満々だな?」
ミリィは悪戯っぽく微笑んだ。
+++
その日、イリン王子は側近を呼び出していた。
側近が広く豪奢な部屋に入ってくる。
そして、近寄ってくる。
イリンは小声で話しかけた。
「見たか、父上を」
「四十も若返ったようでありました」
少し恐れるように側近は言う。
「あれは魔女にたぶらかされて妖魔の物になった化物だ。我々が国のためにも処理する」
「しかし親殺しの大罪となれば弟君に仇討ちの大義名分を与えますぞ」
「良いのだ。あれは化物だ。弟共も各個撃破してくれよう」
叫び出したいような衝動をこらえ、誰にも聴かれないように小声で言う。
「私が処分し、王となる。兵を集めよ」
「は……」
その時、部屋の扉がノックされた。
「入れ」
衛兵が入ってくる。
戸惑ったような様子だ。
「どうした?」
「ハイラル妃が御用だそうで……」
「ほう」
不老の法を知る魔術の達人。
興味があった。
「入ってもらえ」
「ただちに!」
衛兵が出ていき、入れ替わりミリィが入ってくる。
手には杖を持っていた。
「これはこれはハイラル妃。なにか御用で? この度は父上がお世話になった。如何様にもお返しをさせていただく処分です」
「側近の方もどけてもらえますか?」
ミリィは微笑んで言った。
(なにを考えている……化物……)
「なにを考えている、化物」
自分の心の中で思ったことをミリィにそのまま告げられ動揺する。
「これは、またまたなにを……」
「お察しのとおりです」
ミリィはそう言って杖をイリンに突きつける。
「私には読めるのですよ。貴方の心も、父親への叛意も。あの方は国民に慕われる良い王だ。息子に惨殺されるだなんて悲劇は私は許しません」
「……あんな自然の摂理に逆らうような術を、神が許すと?」
震える口で言葉を紡ぎ出す。
恐れていた。
眼の前の存在に。
条理の外の存在。
歴史に名を残す英雄というもの。
英雄は神託のように告げた。
「許すでしょう。それを可能とする人を作られたのは神だ。それもまた自然なのです」
沈黙が漂う。
側近は震えている
「孝行息子として親に仕え、学びなさい、イリン。世代交代は出来なくても偉大な内政官として名を残すでしょう」
「……認めぬ、こんな自然の摂理にそぐわぬことなど……! 前の代は大人しく席を譲るべきなのだ!」
「血を分けた弟と争う運命になろうとも?」
「それが王家に生まれたものの運命なのだ!」
「争いによって疲弊するのは民なのですよ。その点で貴方に王の資格はなかった」
ミリィは淡々とした口調で言う。
「どうします? イリス王に言うも、言わぬも、私次第ですが」
イリンが剣を抜くが、それはミリィの杖に払われた。
しかしめげずに、首を絞めようと飛びかかる。
最早衝動的な行動だった。
「こんなことになるんじゃないかと思ってたんだ」
背後から溜息混じりのハイラル国王の声が聞こえた時には、イリンの意識は遠くなっていった。
つづく
割烹に書きましたが10年前に書いた小説、ロープレ!を読んだら非常に面白かったです。
今より初々しい恋愛模様がなんか自分じゃないみたい……。
汚れちまったー悲しみにー。




