「黄金の林檎を探して欲しい」
「これは凄い」
ミリィは目を丸くした。
階層を抜けた途端にレンガ造りの道。
これには俺も驚いた。
「まるで町のような道が敷かれているのだな。この国のインフラは相当進んでいると見える」
「学ぶことが多そうですねえ」
「うーん。そうしたいのは山々だが、まずはそなたの寿命が課題だ」
王都奪還のために寿命を削ったミリィ。
彼女の寿命を取り戻す方法を俺達は探している。
「その前に、宿ですよ。もうすっかり夕方だ」
「そうだな、無用な戦いは避けたい」
俺達は近場の町で宿を取った。
宿の女将に訊く。
「この国の王はどんな人かね?」
「うーん、ちょっと世代交代に問題ありと言った感じですかねえ」
「と言うと?」
「それが、後継者がまだ若い。しかし王は老齢だ。跡目争いが起こるんじゃないかと皆恐れております」
「ふむ……」
その後、王都への道を聞いて、部屋へ移った。
「なんか入り組んでそうですねえ」
「しかし、あてが外れたな。老齢の王ということは長寿の秘訣はないらしい」
「そうですねえ……ヘンリルに向かうために通行手形だけは発効してもらわないと」
「そうだな」
そう言って、ミリィの手を引き、二人で一つのベッドに入る。
「陛下。言っておきますけど、妊娠して休憩している暇はありませんからね」
ミリィが苦笑交じりに言う。
「わかっておる。そなたの温もりを感じて寝たいだけだ」
「まったく。若い頃は私の方が甘えん坊でしたが、陛下も随分甘えん坊になった」
「そなたに毒されたのだ」
苦笑しあって、キスをする。
そのまま、他愛もない会話をしてそのまま寝入った。
翌朝、俺達は王宮に着いていた。
身分を明かし、王と謁見する。
「そなたが、ハイラルの魔女か」
白髪に白ひげの老王は静かな声で言う。
ミリィは頷いた。
「はい、そうでございます」
「仙人に教えを学んだそうだな?」
「いかにも」
俺は口を挟んだ。
「陛下。我々は階層を抜けるための通行手形が欲しい。妻は王都奪還のために寿命をかなり削った。それを取り戻したいのです」
「条件がある」
老王は穏やかに言った。
憂いを帯びた瞳だった。
「不老不死の術、儂に授けてくれんか」
(……意外と俗物か?)
俺が勘ぐっている間にミリィが答えた。
「陛下。恐れながら陛下の魔力では不老不死の術は得られません。むしろ、無理な魔力の消耗により寿命を縮める結果に終わるでしょう」
「……そうか」
老王は物憂げに瞳を閉じる。
「この国には、黄金の林檎という伝説がある」
俺達は顔を見合わせた。
「黄金の林檎を食べれば不老不死になれるという。仙人はそれを食べて不老不死になり、今もこの国に存命だと言われている」
老王は淡々と語る。
「黄金の林檎を探して欲しい」
「御子息のためですか?」
俺は純粋な興味から問う。
老王は物憂げに頷いた。
「いかにも」
しばしの沈黙が漂った。
「儂の代は酷い跡目争いがあってな。皆の派閥が争って酷い戦争が起こった。まだ子供は若い。それを利用して貴族達がそれぞれの贔屓を盛りたてて権力闘争が起こると見ている」
老王は溜息を吐いた。
「儂は生きねばならぬのじゃよ」
ミリィが一歩前に出て、言った。
「私の魔力探知なら広範囲を捜索できるでしょう。それでも見つかるとは限りませんよ?」
老王は苦笑した。
「見つからねば見つからぬで良いのじゃ。半分与太だと思っておる。仙人から修行を受けたというそなたの力に縋っただけのこと」
「わかりました。探索の任、引き受けます」
(おいおい……)
とんだ足止めだ、と俺は天を仰ぎたいような気分になった。
つづく




