「私がハイラル国王だ」
階層を抜けた。
一面の灰色の空に低い気温。
懐かしい。
「おお……これは」
「これが天変地異の国、ハイラル」
ハイラル初見のヒョウンとアイリンが感嘆の息を吐く。
「レイヴンは経験済みなのか?」
レイヴンが動じていないので話を振る。
「俺はヨルムドでの功績であちこちに行く特別手形を支給されている。大体の国は行った経験があります」
「そうか、それは心強い」
頷く。
「アイリン、頼まれてくれるか」
「はい、なんなりと」
アイリンが胸に手を置いて頭を垂れる。
「ある人物を連れてきて欲しいのだ」
「ある人物?」
アイリンは不思議そうにしていたが、ミリィは察したように微笑んでいた。
しばしの後、その人物はアイリンと伴に馬に乗ってやって来た。
かつて、ハイラルでヴーンと戦った際、リーシェとリディを治療してくれた術師だ。
権力闘争を嫌い在野に下ったという。
「これは……見違えましたな」
彼は目を丸くして俺を見た。
「少年っぽさが残っていたのにすっかりと大人になって。して、私になんの御用で」
「馬と貴方の腕が欲しい」
彼は思案した。
「宮廷医療術師長、でしたか。それは私にはいらぬ肩書だ」
「従ってもらう。私がハイラル国王だ。妻はミリィ。それだけで王都奪還の正当性はある」
彼は思案する。
「奴らは我が妻に王を攻撃させるように仕向け、その混乱に紛れて王を幽閉した。言わば反逆者なのだ」
彼は愉快げに微笑んだ。
「良いでしょう。私も常々宮廷の奴らは気に食わなかったところだ。一泡吹かせようという提案なら面白い」
彼は胸に手を置いて、頭を垂れた。
「貴方に従います、ハイラル国王陛下」
ほっと胸を撫で下ろす。
「そなた、名は?」
「ハラド。元王宮宮廷医療術師副長です」
「それは心強い」
「私の権限で馬をすぐに手配します。しばしお待ちを」
そう言って、彼はアイリンを降ろすと、馬を返して去っていった。
「信じて、良いのですか?」
リーシェが疑わしげに言う。
「大丈夫です、彼の心に偽りはありません。すっかり宮廷が嫌われているようだ」
ミリィは複雑そうに苦笑した。
仲間は揃った。
次は突入だ。
「アイリン、王家の抜け穴まで案内してくれるな」
「はっ!」
アイリンが目を輝かせて頷く。
自分の出番だとばかりに。
リーシェが地図を広げる。
「確認するけど、その場所はここで間違いないのね?」
リーシェがある一点を指さすと、アイリンは頷いた。
リーシェは顎に手を当てる。
「王家の墓地……王家の遺体が集まることによって生まれたある種のパワースポットです」
「罠があると思うか?」
俺の言葉に、新米組とリディが顔を真っ青にする。
「パワースポットであれば、我々にも利になります。我々には最強の魔法使いがついているのですから」
そう言ってリーシェはミリィに微笑みかけた。
ミリィも頷く。
「私の国です。私の手で取り返します」
「それは違うな、ミリィ」
俺は淡々と言う。
「これからの私達の国だ。先王を取り返し、玉座を取り返すぞ」
一同、頷いた。
ここからが正念場だ。
今日一日が、この国と、俺達の、命運を分けるだろう。
つづく




