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放浪王子と引きこもり姫の追放社不結婚  作者: 熊出
第二章・青年期ヨルムド国編

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「正直見たくないものを見せられた気分です」

 ミリィが王都へ飛んでいった。

 何やら買い出しをしたいらしい。

 この冬でミリィの荷物は爆発的に増えた。


 魔導機械の山である。

 ミルドの杖の時点でその傾向はあったが、どうやら魔法に関するものには強い興味を示すらしい。


「で、そろそろそなたの忍ぶ場所も無くなってきたのではないか?」


 天井に向かって話しかける。

 しばしの沈黙。


「剣を投げても良いのだぞ?」


 苦笑して言う。

 観念したように返事が来た。


「気づいておられましたか……」


 年若い少女の声。

 煙が周囲に舞って、それが収まった頃には黒装束の少女が足元にひれ伏していた。


「アイリン。リーシェの差し金だな」


 ますます苦笑しつつ言う。


「お見通しでございましたか……」


「そなたはリーシェ直属だし、リーシェが我々を二人きりにするはずがないと思っておったからな。いつ頃からおった?」


「最初の、最初から……」


「あー、じゃあ、全部見てた感じ?」


 色々あったものだから、気恥ずかしくなる。


「正直見たくないものを見せられた気分です……」


「口外はしてくれるなよ……」


「無論でございます」


 このアイリン。ミルド国の孤児である。レイヴンの知識から隠密術を磨き、今に至る。


「しかし大したものだな。私の妻の魔力探知にも引っかからぬとは」


「私はヨルムドの出なので、魔力のコントロールには長けているのです」


「そなたにはハイラル密偵の任を託していたからすっかり忘れておったわ。して、ハイラル密偵の成果はあるか」


 アイリンは微笑んだ。


「ええ。十分な出来栄えかと思います。王家にしか伝わらない侵入通路を発見しました。これで陛下の考える少人数でのクーデターはより確実なものになるかと」


「でかした!」


 そう言ってアイリンの肩を叩こうとして、思いとどまる。

 婦人にむやみやたらに触れるなと言うリーシェの躾が染み付いている。


「褒美ならなんでも弾むぞ。何が良い?」


「なんでも……良いので?」


 恐る恐ると言った感じで問う。

 俺は無言で優しく頷く。


「で、では、ミルドの武具庫にある武具がほしゅうございます……」


「出来る限り交渉しよう。ハイラル奪還の成功の暁には父も上機嫌になりその程度の融通は効かせてくれるだろう」


「ありがたき幸せ! これでもっと国王陛下を守れるようになります!」


「忠臣だらけでありがたいことよ。ハイラル奪還に成功すれば皆にポストを用意せねばなあ……リーシェにでもしばらく国王代理を任せなければならぬ」


「国王……代理でありますか? 陛下は不在におつもりで?」


「少し気になることがあってな。この国に錬金術なる術があることを知った。それは不老不死の術であるという」


「ヨルムドの研究ではまだ未発達なジャンルですね」


「何処かに錬金術を極めた国があるならば、それについて妃と調べてみたいと思ってな」


「現場主義なのは王の悪い癖でございます。そんなもの部下に任せておけば良いではないですか」


「私が探した方が効率が良い。ますます王の器ではないのかもしれんな。まあ先代がしばらく繋いでくれるだろう」


「先代陛下ですか。お優しい方だと聞いております」


「優しすぎるのだ。それゆえに娘を失った。私は先代と妃に長い時間を与えてやりたいのだ」


「陛下も十分優しすぎる。平民の出の私を可愛がってくださいます」


「私もまた、王の器ではないのかもしれぬな……王とは孤高であるのかも知れぬ。けど私はそなたらと仲良くしたい」


「厳しい王も時には必要でしょうが、陛下のような王も私は好きです」


「ありがとう。しかし、ミルドに戻った際には父に叱られそうなのが懸念だ」


 沈黙が漂う。


「下がって良いぞ。妻が出産を終えたらヨルムドを出なければならない。皆に準備を整えさせよ」


「了解しました。リーシェ様に伝えます」


「任せた」


 天窓を超える跳躍をして、アイリンは去っていった。


「で、いるんだろう?」


「ああ、魔力探知ができない君がいつから気づいていた?」


「肌で感じるのさ」


「足音も消しているのだがなあ」


 俺は振り向く。

 女がそこにいた。

 聞き知った声。

 俺達に魔力増念波を通して話しかけた声。


 仙人、と言うにはあまりにも若すぎる女が、俺の前に立っていた。


「貴方達の器は十分に試し、私の術を託すに相応しい人物だと見定めた。貴方の奥方に、私の秘伝の技を授けよう」


 ヨルムドの滞在も終わるか。

 良い時間だった。

 長い越冬。

 夫婦の在り方を考え直す時間。

 そこを経て、俺達の恋は愛に昇華された。


 ここで得た絆を一生忘れないだろう。

 そう思った。



つづく

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