「我々二度目の社不生活中故な」
朝方、汗でぐったりとして二人並んで倒れ込む。
「お主、頭を読むのはずるい。一人だけ二人分得をしているではないか」
「陛下に合わせるためでございます。それにしても、退屈は人を獣にする」
憂鬱げに言う妻である。
「この前まで処女と童貞だったのに……」
「あれはあれで、ドキドキとして良いものだった」
苦笑交じりに言う。
「見よ」
そう言って、彼女の手を取り、窓の外を見る。
「今日も夜明けだな、ミリィ」
ミリィが嬉しげに微笑む。
「気苦労が多い人生でしたが、子供が出来て若返りましたねえー陛下。その若々しい口調、出会った頃みたいだ」
「お前は変わらんな」
苦笑交じりに言う。
「ハリボテで着飾っているようなもの。そのハリボテも」
妻を引き寄せ、布団に潜る。
「随分落ちた」
「着直せますかね」
「どうだろうな。若い王だと馬鹿にされねえと良いけど」
「それそれ。あー……けど」
低い声で言う。
「今となってはレイヴン様思い出すから辞めて」
相変わらず妻から不評のレイヴンである。
「わかったよ、ミリィ。いや、相わかった、ミリィ。これは家庭内にしては畏まりすぎているな。調整が難しい」
「一度脱いだ鎧は中々着なおせませぬか」
「我々二度目の社不生活中故な」
大人になっても人間関係でこじれるとは、つくづく社不。
「社不には他者と自己の境界がわからぬのだ」
しみじみと言う。
「昔の私に刺さる言葉です」
「そなたは卒業したか」
苦笑交じりに長い髪を撫でる。
「はい」
「ならば私は傀儡になろう。外交はそなたに任せよう」
「何を言っておられますか。貴方のギフトは策謀方面に長けている。今回はただ、人が良すぎただけです」
「うーむ。私が軍師であればこんなに拗れなかっただろうな。私ももうちょっと身分を考えて動く癖をつけねばならん。他国では特に。これは教訓になった。ミルドともハイラルとも違う面だ」
「この、冬を越した頃――」
妻は、呟くように言う。
「故郷は、どう変わっていましょうか」
「どうだろうな。圧政化にはないようだ。見た目は無難な治世が取られているという」
「我々はノイズになりかねないのではないでしょうか。ミルドの国、けしかけたでしょう? 貴方」
「あれは追手をなくすための方便よ。策は他にある」
「それは読めませんでした。と言うと?」
「本命は――ミルドにこっそりと帰り、通行手形を偽装し、ハイラル国内に侵入する。そこからの、少数精鋭でのクーデター」
にっと微笑む。
「今の、魔力をコントロールできるようになったそなたなら、むしろ味方の魔力まで覆い隠せよう。隠密の術に長けた仲間も得た」
妻もにっと微笑んだ。
「それなら民に被害が行きませぬ。私もその案、賛同します。ただ……」
妻は苦笑交じりに言った。
「あんまり先が長いと、私の命の灯火が持つかわからない」
俺は目を丸くする。
「俺も、お前も、まだ十代の若者ではないか」
「最近感じるのです。私の強大な魔力は、私の命の灯火を燃やした業火」
俺は唖然として、妻の唇が言葉を紡ぐのを見ていた。
内容を理解したくない。
しかし脳内に入ってきてしまう。
がっと手を掴まれる。
「現実逃避しないで。しっかり聞いて、貴方」
「ああ、すまぬ。お主の前ではもう失態は見せれぬゆえな」
「期待はしておりませぬと言ったでしょう」
滑稽そうに言う妻。
その表情が寂しげになる。
「私の命は、どうやら残りはそんなに長くないようだ。貴方の人生の半分も生きれぬでしょう」
俺は妻の体を抱きしめていた。
震えていた。
失うのか?
今まで二年間かけて培ってきた関係を。
辛い時支え合った記憶を共有する人生の連れ添い。
ふっと苦笑する。
震えは止まらない。
ただ、気丈でいようと思った。
俺ももう、大人だから。
「引きこもり全開の六年間は温存期間であったか」
優しい声が出て、安堵する。
「陛下と会うために必要な六年だったのでございますよ」
悪戯っぽく返し、その後もしみじみと思い出話に花を咲かせる二人だった。
頭では理解できても、理解できているからこそか、震えは止まらなかった。
つづく




