「 放浪児と引きこもりの社不結婚ではあったが」
厳しい冬のほぼほとんどの時間、俺達は身を寄せ合って過ごした。
食料は定期的にヒョウンやリーシェが運んでくれた。
彼らが言うには、俺達の一騒動で俺の部下の信頼も戻りつつあるらしい。
ただ、この国の王は困ったような顔でこう言ったらしい。
「そなた達の主はこの国の王ではないのだ。謁見行為をする前に今後は私を通してくれまいか」
何やら役人の対応が至らなかったとかその裏で着服まで発覚したとかで大騒動に発展しているそうで。
その関係でちょっと滞在が難しくなってきた。
太陽は二ついらない、という理論らしい。
「 放浪児と引きこもりの社不結婚ではあったが」
「それは一度目の結婚でございます」
妻と身を寄せ合って一つの魔力増念波を聞く。
妻の体は温い。
体温を向上させる術なのだという。
教えてくれと言ったら、抱きついてこなくなるから教えない、とそっけなかった。
今までの彼女にはない対応だった。
「二度目の結婚は、互いに自立した大人でした」
「二年で互いに随分大人になった」
しみじみと語る。
「昔の陛下なんて口調も乱暴でしたよね」
「不思議なことで、古い仲間は皆その頃が懐かしいというのだ」
苦笑する。
「今の方が平和だし、雰囲気出てると思うのだが……」
最近失態を犯した後だから、ちょっと自信喪失気味。
「自信をお持ちください、陛下。陛下は私の英雄です」
「……もう、コントロールできるようになったのだ。そろそろ心を読むのをやめてくれはしまいか」
「これは私の特権です。なくせませぬ。この力で陛下をお守りできるのです」
昔はその力を呪って外界を絶った少女が、今は力をメリットと捉える女性となった。
「そうだな、それはそなたのギフトなのだろう」
「それに、我が子の声も聞こえます。元気な子だ」
ずり落ちた。
「我が子!?」
声が引っくり返る。
「え、ちょ、一回しかしてないのに!?」
「本当、一皮むけばただの男、ですね陛下。狼狽のしっぷりがとんでもないですよ」
ジト目で言う妻。
「一回しかしてなくても出来る時は出来ると言ったのは貴方ではないですか」
そう言った妻の瞳は、優しさを帯びていた。
「え、俺二十歳で父親になるの?」
「貴族では遅いほうでしょうに」
「そう言えば兄貴たちは結婚も早かったなあ。俺は城抜け出して遊んでたからなあ」
「まったく、とんだ社不ですね」
妻は苦笑交じりに言う。
「おかげで助かりました。未来の国の芽がこのお腹の中ですくすくと育っている」
妻の目が、細められた。
「この子が私と同じ能力を授かって産まれても、私同様可愛がってくださいまし」
そこで、はたと気がついた。
彼女が、何に怯えていたのかを。
何を呑気にしていたのだろう。
母に申し訳ないことをしたと言った彼女。
何故気づかなかったのだろう。
同じことを繰り返すことに、怯えていたとは。
「そなた、この魔力増念波を応用して、我が子に喋りかけることは出来ぬか」
「これは受信用。送信用は国営機関にしか手渡されておりませぬ」
「うーむ。この前の私の軽はずみな行動で拗れておるから公式にはちょっと難しい」
「あ、なにか企んでる」
「私のギフトは策謀方面に長けていることらしい。開花してみねばわからぬものだな」
うんうん、と頷く。
「切り札を、使おう。隠密に長けたものをスカウトしている。すぐに呼び出す」
そう言って伝書鳩の足に筒を通し、中に入れる手紙を書き始める。
「我が殿方はどうやらやんちゃっけそのものは抜けていないらしい」
呆れたように言う細君だった。
「そのようなことはせずとも良いよ」
脳裏に響く女性の声。
妻が不安げに眉をひそめる。
同じ声が聞こえているらしい。
「私に教えを乞えば、魔力増念波の魔力網をこのように乗っ取れるのだ。これ以上関係を悪化させるのは今後のためにも賢明とは言えないね」
「貴方は、誰なのですか?」
思わず、問い返す。
「君が探している人物だよ。若き王」
はっとして、妻と顔を見合わせる。
長い旅の終わりが、見えようとしていた。
「いえ」
妻は覚悟の座った表情で言う。
「ここからが私と貴方を追放した黒幕への、逆襲の旅の始まりなのです」
俺も、覚悟を決めて頷いた。
「話を、聴かせてくれまいか」
「まずは、互いに冬を越そう。隠密を使うなどというやんちゃはせずに。大人しくすることも覚えるんだ、王よ。じっと待つ期間も必要だ。王になるにはその忍耐は重要なものだ」
では、と軽い調子で彼女が言った瞬間、思念から解放されたと言う感覚があった。
はっはと息を乱す。
妻も深呼吸していた。
「そなたの魔力量と比べて、どう見る?」
「国ごとの傾向なのでしょうね」
「と言うと?」
「単純な火力なら、私の火力が上でしょう。ハイラルの魔力量にミルド王家秘蔵の杖。この火力は歴史上でも並ぶ者は居ないでしょう。ただ、感じたのです」
恐れるように、彼女は言う。
「生きている時間が、違いすぎる、と。技術で来るのがこの国でありますれば。私が負けることも予想の範疇です」
俺は、彼女を引き寄せた。
「何も考えずに待とう。こうして冬を越せば、接触してくれるという」
「もどかしいですね」
「彼女の言った通りだ。王家の人間には忍耐が時に必要だ」
「焦って手を打つと手が滑ることもありまするか」
納得したように頷くと、妻は俺に体重を預けた。
つづく




