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放浪王子と引きこもり姫の追放社不結婚  作者: 熊出
第二章・青年期ヨルムド国編

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(それはベッド・インじゃなくてパジャマパーティなんだってば!)

 その時間がやってきた。

 妻は厚手のカーディガンを脱ぐ。

 黒い寝間着。

 魔女の衣装。

 苦笑する。


 いざその場を前にすると、緊張しないものだ。

 何ら変わりもない。俺達のスタート地点。

 あの場所に、良く似ていた。


 妻の表情もほころぶ。


「あの時クラフト様が来てくれたから、私は外の世界に出れたし、リーシェちゃんやリディちゃんやレイヴン様のような友人が出来ました」


「そうだな、今のここは、まさにあの場所。一つ違うのは、互いに少し焼けたことかな」


 苦笑する。


「この国は雪は降るわりに夏も暑ければ。皆さんのことをいつも待機所で待ちながら心配しております。やれ熱中症の人は出ないか、やれ脱水症状を起こす人は居ないかと。リーシェちゃんと国王陛下の割り振り会議に参加したいなとドキドキ思ったりしているのです」


「言わないと俺達には伝わらないぞ」


 彼女を抱き上げる。


「旦那様、急には怖い」


「あのな、昼から、言ってた! 昼から、言ってた!」


「だって、ぐるぐる考えてたらあっという間だったんだもん! リーシェちゃんの言葉も右から左よ!」


「あ、開き直りやがったこの女! 良いもんね、強硬するもんね!」


「圧政はんたーい!」


 怒鳴り合いながらベッドに崩れ落ちる。

 二人して、笑い合っていた。


 なんてことはない、普段の二人だ。


「……意識、しすぎましたね。するって決めたわけでも無かったのに」


「そうだな、リーシェの奴が余計な気を回すからいけない。性教育などそもそもいらなかったのだ」


「それは困りますれば!」


 リーシェが慌てて声を上げる。

 俺は戸惑うように言う。


「何故だ。あいつは俺達をそういう方向に操作しようとしすぎている」


「情報を知らなければミリィはまだ旦那様とキスが出来ないままだったのでございますれば……」


 妻が抱きついてくる。


「いつもより香料強くないか?」


「リーシェちゃんに言われたのをおぼろげに覚えています。匂いで異性を萎えさせちゃ駄目、絶対、同盟員減るから! って」


「余計なことを。ミリィは自燃でいい匂いがするのに」


「じゃああの汚部屋でも、いい匂いでしたか?」


 恐る恐るミリィは問う。


「そうだな」


 過去を回想する。


「特に匂いに意識をやった気がしないと言うか」


 くっくっくと笑う。

 ミリィも察したらしく、気恥ずかしげに小さくなる。


「ミリィはあのころは嫉妬深い性格でした……今思えば」


「互いに大人になったということよ。俺は俺で舞い上がって匂いにまで気をやる余裕がなかった。人生初の春だったしな」


「短い時間だったけど、随分長く続いたような気もしますれば」


「覚えてるかー。お前嫉妬に狂ってリーシェの家破壊したんだぜ?」


「あれがたった二年前、それよりちょっと前か。信じられませんねえ」


「時の流れは、早い」


 目と目があう。

 唇と唇を触れ合わせ、離す。

 新しい遊びを覚えたような。

 二人だけの秘密を共有したような。

 そんな気恥ずかしい思い。


「政略結婚ですが、クラフト様が旦那様で良かった」


「俺もミリアリアが嫁で良かったよ」


 二人、抱きしめ合う。


「冬でも暖かいな、お前は」


「最近はこの国で魔術のコントロールを学んでいます。熱を発生させる魔力を覚えているのです」


「……それは、そなたの意識が朦朧とするのではないか……?」


(魔力のコントロールそのものは、この国で完結するのだろうか?)


「かもしれません。この国は出力は弱いがコントロールに長けた国だ。それぞれ武具に頼る国、放出に特化した国、コントロールに特化した国と渡り歩いてきました。旅人の中には私達の想像を超える強者もいるのかもしれない……ただ」


 物憂げな光が瞳に宿る。


「この王城の魔導書を読み漁っても、空間を捻じ曲げる類の書物は無かった。ハイラルにしかないのかもしれません」


「敵は空間転移魔法を使ってくる。対抗するにはこちらもそれなりの心構えが必要……やはり仙人が必要か」


「それは今日、気になる書物の記述を見つけたのです。地政学の著書でした」


「地政学。それはそなたにしては珍しいことを」


「リーシェちゃんも言ったんですけどね。教育は我々がするから貴方は国王陛下の隣にいなさいと」


「それはそれでどうなのだろう。俺は自分の家庭の再現は嫌だぜ」


「……私も、母が私に出来なかった分、我が子には愛情を注いであげたい」


「リーシェは忠臣だが口出しが過ぎる。歳を取ってから特にだ」


 唇を尖らせる。

 あいつ、本格的に俺達の姑になった気持ちではあるまいか。


「まあまあ。私達の恩人で、これからもお世話になることは変わりない。家族ではありませんか」


「まあな。今更奴なしの仕事なんて考えられん。もちろん、そなたもだ」


 ミリィは目を細める。


「幸せにござりますれば。しかし、ミリィは育児で苦戦してみたいのでございます。仕事は一旦お休みをば」


「構わん」


 二人は抱きしめあった。

 そして、夜が明けた。



+++


「で、どーだった? 初ベッド・インの感想は」


 リーシェがミリィの肩をがっしと掴んで言った。


「朝まで、抱きしめあって、雑談して、ちょっと眠い」


「なんか進展、あった? 抱きしめたって、比喩?」


「にゃんでそんなに必死なのリーシェちゃん。おっかしいなーふらふらする」


「……もしかして、学生のノリでただ深夜までおしゃべり会しただけ?」


 肩を落とすリーシェなのだった。


「けどね、性器の話になってね」


 お、と顔を上げるリーシェ。


「例を上げてもらったけど、あんなの絶対入んないよねーって笑ってたら陛下も苦笑いしてた。内心入るはずなんだけどなーって懊悩してるけど照れて口に出せないでやんの。可愛いよね、あは」


「この天然娘……」


「わーリーシェちゃん頭どピンク。やらしかー」


 俯いてわなわな震えるリーシェ。


(それはベッド・インじゃなくてパジャマパーティなんだってば!)


 忠臣の道は苦難の道だ!

 負けるなリーシェ、戦えリーシェ!

 そう自分に言い聞かせた。

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