『拝啓父上』
その日、ミルド国に一人の裸の男性が馬に縛られて運ばれてきた。
体には書状が張られている。
それがミルド国の第二王子だと知れると、どよめきが走った。
書状が国王に手渡される。
その口元が、緩んだ。
「はははは、はーっはっはっは。ただの武官で終わるならそれまでと思っていたが。化けたか」
そう言って書状が大臣に手渡される。
大臣の表情が真っ青になる。
「相手は魔法大国ですぞ! どんな戦術を使ってくるか」
「だが、その正当な血筋を引く唯一の御身は第三王子の手中。婚儀も果たしたという。義は我々にあるのだよ、コーア」
そして、断言する。
「ハイラルは内部分裂する」
「なんと……」
「そこまで見えての提案なら、大したものだ、あの愚息は。して」
王は戸惑うように言う。
「肝心の第三王子は何処におる。諸心表明だけで終えるつもりではあるまいな?」
間抜けな沈黙が漂う。
誰も何も答えない。
「まさかこれで追手が来ないぞラッキーって仕事しなくなる最近の若者に急増中のあれなのか?」
「国王陛下、興奮しているところ申し訳ないのですが」
大臣が申し訳な下げに言う。
「第三王子殿下は、武具庫の鍵をレイヴン殿と共謀して破壊し、武器を持ち去りました。ついでにレイヴン殿が要求した関所の身分証明書も無事発行された模様です」
「……姫は何処だ」
「旅につれていくそうで」
王は呆気にとられた表情になった。
後に部下は語る。
こんな間の抜けた表情をするのは、威厳に満ちた陛下にあってはとてもとても珍しいことだった、と。
「まあ良い、我々は兵を集めるぞ」
暗澹たる表情で言うミルド国王。
「我々は攻める。大国の復活だ」
活気に満ちた城内に、沸いた
「表向きは王家復興。実質的な属国化だ。忙しくなりそう……なのやら、本人達にやる気がないのやら。全くもって最近の若いものはわからん。まあ」
王は珍しく柔らかく苦笑する。
「理解しようとしてこなかった私にも問題はあるのだろうな。あの男を従えるとは。随分と大きな男になったものだ」
遠くを見るようにして言った王だった。
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「秘伝、滝登り!」
船が勢い良く動き出す。
オッサンが船を漕ぎ始めたからだ。
「これは凄いな。世界が開けたようだ」
「関所まで物の暫くでつく。少しくつろいでな、小僧」
「小僧は辞めろ、レイヴン。上司であるぞ」
「はいはい。俺にばっか格式ばってからに、女には良い顔しやがってよー」
「語弊があることを言うな、レイヴン」
「へいへい、わかってます」
うーん。年上の部下ってなんとも使いづらい微妙な気分。
気を取り直してミリィに話しかける。
「ついに、ヨルムドに辿り着く。魔力のコントロールを覚えて、そなたにも平穏な暮らしが戻るだろう」
「――あの時、少し、変でした。クラフト様」
「ああ、あれ以来どうも妙な心持ちだ。見える世界が変わったと言うか。全てがしっくり来たと言うか。これからの私にも、あの時のような合理的な判断が出来るだろうか」
「まずは」
俺の肩を揉む妻。
「言葉遣いを砕けさせるところから覚えましょう。親しみやすい王の方が受けが良いですよ」
「嬢ちゃんに賛成!」
「私も賛成です。しかしレイヴンさん、嬢ちゃんではどの子を指しているのかちょっとわかりませぬ」
「お前達はとっぽいねーちゃんとまっちょなねーちゃんだ」
「あんまりです!」
「あんまりよ!」
二人の声がハモる。
「デリカシーないー」
「男ってこれだからー」
あれ、男一人増えただけで派閥みたいなの出来てる?
「レイヴン殿ーその、ほどほどに。これからは王宮づとめなんだから、ね」
「暫くはお前の旅のお守りだよ。努々行く先で死なれては敵わん」
むすっとして返事をしなくなったレイヴンだった。
まあ、現役最強戦力であることは間違いのないのだが。
関所に差し掛かる。
身分証明書の光が関所の光と重なり、扉がゆっくりと開き始める。
「この地には仙人がいる」
ミリィは頷く。
リーシェが頷く。
リディは不服げ。
レイヴンは苦笑顔。
俺達は、前に進んでいる。
第一章・ミルド編、完




