「私も大人になったのだ。少しは悪知恵が効くようになった」
剣と剣がぶつかりあい、火花を散らす。
いつもの挨拶。
そして両者、後方へと飛んでの高速撹乱。
速い。
ぷっつんしたリディを倒しただけのことはある。
カタログスペックだけで言えばリディは戦略兵器。
それを一人で圧倒した相手も言わずがもな。
正直、俺はそこよりは武官としては一段落ちる。
あの大剣を持って、あの大柄な体躯を持って、この機動力。
いや、その大柄な体躯故か?
筋肉が生み出すパワーと神通力が循環し尽くした結果。
あの化物は産まれたのか。
一度も勝てなかったな、と苦笑する。
「懐かしいな、レイヴン」
「オッサンって呼べよ、調子狂うな」
「私も、大人になったのだ」
癖。偏り。傾向。
どうしても現れる。
本人も自覚せぬ内に。
何千回と戦った記憶を照合する。
その時、俺はある種の異能に目覚めていた。
一段下の俺を、一段上に押し上げる才能。
分析力。
将としての資質が、花開いた瞬間だった。
「少しは悪知恵が働くようになった」
そう言って剣で地面を突いて目を閉じる。
結果は見えていた。
「手加減しろよ、ミリィ」
そう言って微笑む。
「最期の言葉が嫁の名前たぁ情けねえ!」
怒りに身を任せ突進するオッサン。
「レイヴン。猪武者では通用せぬ世の中なのだ」
「はい、その通りです、旦那様」
青空を思い起こさせる声。
リディの時間稼ぎの間に一発分は回復したのだろう
炎は、俺の足元にあった。
瞬間、炎が巻き上がった。
「馬鹿な、俺の期待を煽るだけ煽って、怒らせただと!? 俺が、戦場で、心を乱した!?」
「お前は私に期待してくれていた」
静かに微笑んで言う。
「だから、失望すればその位置から斬りかかると、私は知っていたのだ。お前と手合わせしてきた何千もの模擬戦の中で」
「……俺にも、癖があったってことかい」
くっくっくとレイヴンの笑い声が響き渡る。
「良いだろう。今日から俺はお前の部下だ。クラフト第三王子殿下」
「ハイラル王、で良い」
「正気か」
ミリィは優しく微笑む。
リディを背負ったリーシェが目を見張っているのがわかる。
「ハイラルの正当な血を引く王家の末裔ミリィは我が妻だ。義は我にある。我々はハイラルを奪還する。いかなる手段に頼ろうと」
「おお、おお、おおお……!」
レイヴンは吠える。
「おおおおおおおおおおお!」
「だが、まずは妻の魔術のコントロールからだ」
がっくりと項垂れるレイヴン。
「十分脅威だぜ」
ぼやくような言葉だった。
「俺の武器だけピンポイントに溶かすとか。師匠からもらった由緒正しい品なのだけどな」
「代わりの品は用意させる」
「あてはあるのかい?」
「父上にねだる。武具庫に良い品が転がっているだろう、あこは」
「……お前、本当にあの小僧か?」
疑うように言うレイヴン。
「言ったろう。私も、大人になったのだと。大人の汚い嘘に騙され、友人に裏切られ、少々思うところがあった。私は変わらなければならなかった」
「……若い頃から庶民を見てきたお前だ」
そう言って、レイブンが俺の肩に手を伸ばす。
その先を、杖が阻んだ。
「なんかその先は禁断の臭いがするからノー! 」
両目を瞑って顔を真赤にして言う嫁。
お前の方が脳内どピンクじゃねえかワクライのこと言えたことか。
それをそのまま読んだらしく憤慨する。
「絶対この人欲情してますって! リーシェの家の本で読みました。十七歳の青年の体を狙う獣の目つきでございます!」
「お前の嫁、いつもこうなのか?」
呆れたように言うレイヴン。
「そうなんだよぉぉオッサン、俺メンバー率いてるんだけど、来るやつ来るやつ変人ばっかり……」
「まあ、悪いけど」
杖を指先でチョンと突いて破壊するレイヴン。
その手が、俺の肩を叩く。
「俺も変人だ」
「ああああああ私の杖ぇぇぇぇぇ私の旦那様ぁぁぁぁぁぁ私の食費一ヶ月分ぅぅぅぅぅぅ」
「それこそお前の旦那の実家の武具庫見ればもっと良い品が転がってるだろうよ。てか今そのガラクタそんなに高いのか?」
「ハイラル需要で価格高騰中、今後も当分は値上がる見込、ぐすん」
「あー、なんか、すまんな」
その日、俺達夫婦は久々に泣いた。
泣くだけ泣いたらすっきりした。
つづく




