「恋人に待ち合わせをすっとぼけられたのさ」
「まあ、燃えやすいわな」
俺はぼやくように言うと、片手を上げる。
エミリーが地面に手を置いた。
周囲の穀物が盛大に燃え始める。
「こんなところに平らな砦を建てたのがお前らの敗因よ。知能はあっても知恵はないらしい」
言いすてる。
良いのか、という迷いの声が湧く。
ここに生い茂ってるのは、民が植えた食物の苗だ。
しかし、生きていればこそ食べられるものだ。
今回は犠牲になってもらうしかあるまい。
炎が燃え盛っていく。
煙が敵の砦を包み始める。
「……煙が最大限に広がった隙に突入する。まずはエミリーがでかい一発。その後、フレアとレイヴンを先頭に突撃する。撹乱戦ならそなたらの手の物であろう」
「はっ」
レイヴンが剣を抜く。
「……陛下の覚悟、しかと見受けました」
リーシェが恭しく言う。
「勝つためだ」
俺はできるだけ淡々と言う。
「これぐらいの犠牲は我慢してもらおう」
俺は生まれ持っての王族ではなかった。
民と育った。
だから知っている。
酪農の大変さを。
胸は苦しい。
しかし、勝つためだ。
今は鬼にならねばなるまい。
命が一番重いのだ。
「しかし陛下、毎回このような戦法を取っていればそのうちミルドの食料が……」
「わかっている。支援はできるさ。今、我が国は稲が育つ土壌ができた。支援もできよう。それに」
そう言って、手を前に差し出す。
「注意するべき敵は七人。そのうち二人はすでに倒した」
エミリーは頷いて、両手を前に差し出した。
異常に気づき、門から異形のものたちが出てきたところだった。
その先頭の者は、エミリーの放った極大の火球で蒸発した。
フレアが分身して突入し、ついでレイヴンが長剣を持って突入する。
それを追い越して、俺は門から飛び出てきたひときわ迫力のある異形と剣を結び合っていた。
「フレア、レイヴン、行け! こいつは私ではなくては討てない敵だ!」
フレアもレイヴンも承知したらしく先へ進む。
リーシェとリディがすっと背後に来るのを感じた。
敵の顔を見る。
リヒエルでは、ない。
「あからさまにガッカリしたような様子だな」
相手の翼の生えた中年男性はニヒルに笑って言う。
「恋人に待ち合わせをすっとぼけられたのさ」
そう言って、俺は相手の剣を弾いた。
相手は空に浮くと、どこからともなく槍を召喚した。
俺も、右手が長剣、左手が槍と言う装備だ。
俺の槍は糸が繋いであり空中での軌道変更を可能にするのだ。
「寂しいなら抱きしめてやるぜ」
そう言って相手が甘く囁いた瞬間、空中に無数の槍が現れた。
これは、レッドと同じーー。
そう思っている間にも、槍は雨のように降り注いできた。
俺はリディとリーシェを抱えて、後方へと回避を始めた。
つづく




