「困ったな」
「困ったな」
俺は呟いていた。
「わかっていたことだが、アイリンがいないと斥候がおらぬ」
リーシェも頷く。
「替えの人材もいると言えばいるのですが、アイリンの域に達する者はいません」
「ここは、レイヴンの野生の勘に賭けて進むか……」
しゃきっと背を伸ばすレイヴン。
「レイヴン様……若干確実性に欠けますね」
しょげるレイヴン。
オッサン、しっかりしろ、
「やはりアイリンの後継の者を呼び出しますか?」
「いや。危険な戦いだ。信頼がおける者でなければ私は使わぬ。頼む、レイヴン」
「わかった。俺も気配は消せる。ちょっくら見てくるわ」
そう言って前へ進むレイヴン。
そして、言い残した。
「陛下、前にばかり意識が行っていて後ろがお留守ですぜ」
揶揄うような物言いだった。
「レイヴン! 貴様、陛下になんという口を!」
リーシェが牙を剥く。
「こりゃ敵わん」
そう言ってレイヴンは跳躍していった。
まったく、リーシェときたら元々硬いガードがさらに硬くなった。
鉄の女、と言った感じ。
「リーシェ、そなた、帰国したら家庭でも持ったらどうだ。休暇はやるぞ」
「私は陛下の妾になる気はありませぬ」
アイリンといいこいつといい……。
「そう言う意図はない。私はそんなに信用がないのか」
「私はそもそも異性に信用がありませぬ」
昔はこうじゃなかったんだけどな。
柔和な雰囲気のお姉さんという感じだった。
母国奪還の責務とその後の激務とミリィやアイリンやレッドの世話が彼女を変えた。
けど、言ったらまた拗れるしなあ。
「まあ、そなたの家庭感についてはもう何も言わぬよ」
「その方が穏便に行きますな」
まったく、どちらが上司かわかったものではない。
しかし、家族もハイラルから遁走した際に断絶したというし、これでは後継ぎが絶えるのではないのだろうか。
けど、言ったらまた拗れるしなあ。
「まあ、結婚って良いとこもあるよ」
そう言って軽い調子でリーシェの背を叩くリディ。
「アイリンは無事だろうか……」
リーシェはあからさまに話題を変えた。
しかし、それは俺も気になるところだった。
「ミルドに潜伏すると言っていたな。無理さえしなければ良いのだが、彼女は無理をする子だ」
「私も伝書鳩の要領でほいほいと使ってしまった。悔いているところです。そんなことをしなければ、あの子は陛下に懸想するようなこともなかった」
「いや」
思い出す。
アイリンの髪に戯れに花を飾ってやった時のこと。
俺にとって、それは戯れだった。
しかし、戦場しか知らぬ彼女には、革命的な瞬間だったのだ。
「俺が悪いのだ」
俺は渋い顔で言った。
そのうち、レイヴンが獣のように眼前に着地した。
「砦がある。最近できたものだ」
そして、立ち上がって続ける。
「大きな気配が、一つ」
一同、息を呑んだ。
つづく




