(空回った!)
俺はしばし考え込んだ。
レッドは優秀な戦士だ。
多分身体能力を抜きにすればレイヴンより強いだろう。
しかし、その可能性は考えられない。
「レッド。私がもしも倒れた時、誰がこの国を治める」
話の着地点がわかったのだろう。レッドは小さくなる。
「私です」
「ならば、そなたは留守番だ」
悪戯っぽく言う。
「卑怯ではないですか。陛下は若い時分から冒険して、今も旅をして、各地で武名を上げている。それを苦労だと言う人もいるし、私も苦労だとは思います。しかし、私も武名を上げとうございます」
うーん、尤もだ。
この年の子に国王の責務だとか戦場の怖さだとかそう言うものを語って聞くものではない。
考え込んでいると、レッドが思わぬ方向に話を振った。
「なら、私は、社交界デビューしとうございます」
(空回った!)
叫び出したいような気分になった。
なるほど、息子の計画としては、リア少女の社交界デビューに合わせて自分も社交界デビューし、正体を明かす心づもりだったのだろう。
しかし、リア少女の社交界デビューは俺の愚策によって先延ばしになっているのである。
完全に裏目った。
頭を抱えたいような気分になる。
しかし、息子の社交界デビューに合わせてリアも社交界デビューさせれば帳尻が合うか、と思った。
「ダンスのレッスンはしているか?」
レッドは頷く。
「はい!」
「意中の相手はいるか?」
「まだそのような歳ではありません!」
マセていると言う自覚はあるのか。
バレバレだぞーと言いたいところだがそれは息子の尊厳を傷つけるようで憚られる。
「そうか。なら、留守を頼んだ」
「本当ならば、武勲を上げてからそのようなことをしとうございます。陛下はこの前の戦いで大怪我をされた。私は陛下のお力になりたいし、なる実力はあると自負しております」
「この国を治める者としての立ち振る舞いを身につけねば、社交界でも誰もついてこぬぞ」
「陛下はどうしていたのです」
グッと詰まる。
社交界どころか野生児生活を送ってましたとも。
「ともかく、そなたはこの国の未来。しっかりと勤めるように。社交界デビューは認める」
「はい」
しゅんと項垂れる息子だった。
さて、どうしたものか。
クロードとまた予定を擦り合わさねば。
息子のダンスのレッスンの講師は上等だろうか?
そもそも息子に女性への接し方は誰が指導したのだろうか?
あの潔癖なリーシェではうまくいくものもうまくいかなくなるぞ。
ああ、また迷走。
親って考えること多すぎて難しい。
「私はミルドを解放する」
お、尤もらしいことを言う俺。
「その後、我が妻ミリアリアの寿命問題を解消し、国に戻る」
レッドは切なげに頷く。
その表情に罪悪感が疼く。
また一人にしてしまう。
そんな気負いが俺を過保護にさせるのかも知れない。
「それまで、国を頼んだぞ、レッド」
レッドは微笑んで、胸に手を置いた。
「任されました」
+++
俺は少数精鋭をつのって国を出た。
生半可な戦力は盾にすらならない。
上澄みのアイリンですら、言っては悪いが足を引っ張ったのだ。
国の中でも上澄みの中でも上澄みのメンツ、欠けてはならないメンツを集めた。
エミリーがいるのが不安点だが。
「そのアイテム、誰か他の者には託せぬのか?」
「私用に調整しておりますゆえ」
エミリーはすました顔だ。
「怖くはないか」
「こんな平和な時代です。英雄にでもならなければ平民は一生平民なのです」
彼女なりに、腹が座っていると言うことなのだろう。
「では、行くか。砦を一つ一つ堕として、王都を奪還する」
「応!」
声が重なった。
再度始まる。
ミルド奪還戦が。
+++
旅立つ国王を少年は物陰からじっと見ていた。
ボロボロのフードに骨董品の剣を腰に下げ、見ていた。
つづく




