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放浪王子と引きこもり姫の追放社不結婚  作者: 熊出
第十二章・父親期ミルド国奪還編

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「惜しい」

「惜しい」


 俺の手を踏み漬けにしたリヒエルはそう呟いた。

 レイヴンの大剣が、フレアの双剣が、アイリンのくないが相手の肌に突き立てられる。

 しかし、肌を破れない。


 それでも、皆、攻撃を続ける。


「やめ……にげ……」


 声が声にならない。

 さっきの叫びで全力を使い果たしてしまったようだ。


「お前は示した。策略家としての資質。武人としての資質。人の上に立つ者の資質。だが、如何せんお前は武官であって王ではない。王であれば、民草のために自己を犠牲にするような愚は犯さないだろう」


 俺はぼんやりした頭で相手を睨みつける。 

 相手はふいと、興味を失ったように剣を持ち上げた。


 終わり、か。


(すまぬ、ミリィ)


 頭が回らない。

 けど、自分が咄嗟にとった行動が原因で、妻にどれだけ悲しみを背負わせるかと思うと、胸がとても苦しくなった。

 けど、例え誰があの場にいても、知らない者であっても、自分の国の民ならば自分は同じことを繰り返してしまっただろう。

 そんなことを思う。


「おい、そこのホムンクルス」


 そう言って、相手はフレアに視線を向ける。


「このズタボロを元どおり癒すことは人間の魔法技術では可か?」


「治療術士、いる?」


 フレア達は攻撃の手を止めていた。

 レイヴンは苦い顔で言う。


「国一番の医療術士は俺と共に捕虜になった。しかし、時間はかかるが、元には戻る」


「そうか」


 リヒエルはそう言うと、刀を鞘にしまった。


「この男を治療してやれ。俺はこいつと決着をつけたい。人間でも、このように突出した者は稀だろう。このような決着は惜しい」


 そう言ってリヒエルは歩き始める。


「砦は墜ちた、俺達の負けだ」


 そう言うと、リヒエルは去っていった。

 レイヴンが俺を担ぎ上げる。


「全力でハイラルまで移動だ! 全員、全力で走れ!」


 揺られる感触。

 熱くてぼんやりとしている。

 本当に治るのかな。

 ミリィ、肌も髪もなくなった俺を見て泣かないかな。

 そんなことを、ぼんやりと思った。



+++


 医療術の柔らかな光を俺が包んでいる。

 しかし、痛い。

 全身が痛い。


「麻酔の類は、ないのですか?」


 アイリンが躊躇いがちに訊く。


「多分、意識を失ったら、二度と戻ってこれない」


 随分と久々に訊くリディの声は深刻だ。

 ポンコツリディが随分と立派になったものだ、と思う。


「陛下を早急に運んでくれて良かった。命さえ繋がれば、ハイラルはやっていける」


「すまぬ。返す言葉もない」


 リーシェの感情を殺した静かな言葉に、レイヴンは小さくなっている。

 その時、異質な気配を感じた。


 これは、寂しさ?

 切なさ?

 様々な気持ちの集まりだ。


 手に、何かが触れた。


「陛下」


 アイリンの声だ。


「お慕い申しておりました」


 一同ざわりとする。

 俺も何かを考えたいのだが、頭が朦朧として思考にならない。


「今後は、影に徹して生きようと思います。ラハド殿も私が助け出します。では」


 アイリンの気配が去っていく。

 ダメだ、やめろ。


 そう思うのだが、言葉にならない。

 そのうち、全ての治療が終わった。

 三日ほどかかっただろうか。

 リディは、意識を失うように寝入った。


「すまぬな、手間をかけた」


 リーシェは、複雑な感情が入り混じった冷たい目で俺を見下ろしていたが、そのうち溜息を吐いた。


「話は聴きました。陛下らしいといえば陛下らしいと思います」


「アイリンは?」


 俺は問う。


「連絡を絶ちました。単独でミルドに向かったかと」


 そうか。

 考えることが、色々あった。

 まず、教訓がある。

 一線についてこれない仲間は死の危険が大きい。

 厳選したメンバーで突入しなければならないだろう。


 アイリンのことは、一時、頭の外に置いた。

 自分にできることは何もない。

 生きていてくれればそれで良い。そう思った。



つづく


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