「これはデスマッチだ! 俺とお前の!」
高台が倒れて地響きを立てる。
砦の上部に着地し、アイリンを下ろす。
「アイリン、お前は隠れていてくれ。どうやら今回の戦いにお前はついて来れそうにない」
「そんな、私でも、陛下の盾ぐらいには!」
「自分の命を粗末にするな」
頭をワシワシと撫でる。
アイリンは唇を尖らした。
「だから異性に気安くそういうことをするなと……」
「ああ、そうだったな」
アイリンは娘のようなものだからついつい可愛がってしまう。
「無事を祈っていてくれ」
「祈ります。一生懸命に!」
アイリンの言葉を背に受けつつ、中空を跳躍して来た敵と激突する。
剣と剣が押し合い、悲鳴をあげる。
「人にしてその境地、面白いぞ、クラフト!」
そう言って、相手は剣を大なぎに奮う。
しまったな、と思う。
空中での方向転換用に導入した槍を手放してしまった。
足場がない。
相手が先に着地するだろう。
そうとなれば、待っているのは……。
想像して一瞬で冷や汗が全身を覆った。
その時、背中に衝撃を受けた。
振り返ると、アイリンだ。
蹴り落としてくれたらしい。
「ご無礼!」
そう言って上部に戻っていく。
再び相手の跳躍。
刀をいなして地面に着地。
次は空中にいるのは相手だ。
「アイリン、ちょっかいはかけるな!」
くないを投げかけていたアイリンが動きを止める。
どのみち、くないなどあの生物には無駄だろう。
ただ、アイリンに攻撃が行けば、今回のようにリカバリー法がなくなる。
それは、詰みだ。
空中の相手に切り掛かる。
空間を歪めん勢いの突進。
しかし、相手は横薙ぎに弾いた。
目を見開く。
古代文明の結晶、ヴーンウィッチへの決定打になったこの一撃すら逸らすか。
俺は勢いよく砦の外まで飛んで行った、
相手は振り向き、そして引きずられる。
普段、槍を使って空中移動する時の要になる糸。
それが今、相手に絡みついていた。
「これはデスマッチだ! 俺とお前の!」
相手は、にいと微笑んだ。
面白い、とばかりに。
(なんだよ、お前も結構野蛮じゃないか)
俺は気分が高揚していくのを感じた。
+++
レイヴンは防戦一方だった。
相手の剣筋を見極めるので手一杯だ。
以前は当たり前にできていたこと。
それが必死にならなければできない。
これが、老いか。
大剣ももう引退だな、と思う。
魔力で腕力は底上げしているが小回りが効かなくていけない。
「そうか、お前、西方で捕虜になったーー」
相手の目が細まる。
「つまり、捕虜としての価値はあるということだ」
剣戟が止まる。
何か策があるのか?
戸惑い、後方に跳躍する。
フレアは待機し、エミリーは魔術砲を撃ち続けている。
「俺はよお、身体能力のピークは過ぎた。体にガタがきていけねえ。全盛期ならお前らの捕虜なんかになる前にとっとと撤退できたはずだ」
「負け惜しみか?」
嘲笑するようにリリエルは言う。
レイヴンは皮肉っぽく微笑む。
「けど、得た者がある。お前らに刺さる武器だ」
「ほう……」
リリエルは初めて、剣を構えた。
警戒したらしい。
「なら、次の一撃でお前の資質を示せ!」
「おうよ!」
レイヴンは飛びかかる。
大剣を振りかぶり、下ろした。
相手の、はるか手前で。
相手は目を丸くする。
地面に大剣が刺さる。
その反動で相手の後方へと移動する。
相手は振り返るが遅い。
羽交い締めにした。
「俺が得たものを教えてやろう」
フレアが相手に飛びかかる。
「経験、だ」
リリエルの首が、フレアの一撃によって地面に落ちた。
+++
「あー、ミリィが恋しい」
ぼやくように言う。
「ミリィとは誰だ?」
戸惑うように相手は言う。
「嫁だ。俺達はラブラブでそれはもう充実した時間を過ごしていたのだ。そなたらが邪魔するまでは」
相手は声を出して笑い始めた。
「ははは、現実逃避か」
「かもなあ」
ミリィの膝枕の感触を頭から追い出し、相手の対処に集中する。
トップスピードは誤差。
それだけでも驚嘆に値する。
俺はこの地上ではトップスピードではダントツに速いだろう。
仙人よりも上だ。
それに比肩するだけでも相手の突出度が伺える。
剣技や絡めてはこちらに利がある。
しかし、腕力。
圧倒的な腕力が、相手に利している。
迂闊に懐に入れば、次の瞬間首から上がなくなるだろう。
息を飲んだ。
(まったく、王の器じゃねえなあ)
こう言うのは、兵隊にやらせる仕事だ。王の仕事ではない。
根が武官なのだろう。そう思う。
けど俺より強い奴、ハイラルにいないし。
「して、攻め方は定まったか? 妻君が愛しい旦那殿」
揶揄うように相手は言う。
ここまで力量が隣接していれば、搦手は効くまい。
武と武でぶつかり合うのみ。
「のるか、反るかだ」
そう言って、俺は腰を下ろす。
相手も、刀を構える。
その瞬間、俺は空間を圧縮して相手に飛びかかっていた。
また、弾かれた。
しかし、繰り返す。
神速の特攻の連撃。
速度は紙一重。
相手は受けれるが反撃しきれない。
その次の瞬間、相手が刀を振った。
「見切った」
そう言っていた。
剣がくるくると空中を回転する。
手に痺れ。
強い一撃だった。
次の瞬間、俺の首は断たれるだろう。
相手はにやりと微笑む。
その表情が、俺の笑顔を見て、唖然とした、
こう言ったケースも想定していた。
して、策を練っていた。
それが俺のギフト。
策謀。
相手に正面からぶつかったのも全ては合流までの時間稼ぎ。
無理そうなら撤退することも考えた。
けど、上手く相手はハマってくれた。
駆けつけた陽動軍が、熱線を放っていた。
「ば」
言い切ることもなく、相手を中心に爆発が起こった。
地響きがなる。
ミリィの魔術を彷彿とさせる威力。
古代兵器ヴーンの装甲も否応なく破壊した無慈悲の一撃。
果たして、相手に効くか。
アイリンが俺の横に着地する。
「流石陛下。策がばっちりとはまったようですね」
「気を抜くな。相手の気配は消えていない」
アイリンが顔を強張らせて元の位置へ戻ろうと跳躍する。
初めて直面する相手との圧倒的な力量差に焦っていたのだろう。
普段のアイリンの軽率さではなかった。
煙の中から影が飛び出す。
相手の口から吐き出された火炎が、アイリンに届こうとしていた。
それを庇う形で、俺はアイリンを突き飛ばした。
灼熱が俺を襲った。
つくづく、思う。
王の器では、ないと。
これは、命にかかわる傷だった。
医療術士はいない。
「ク、クラフト様ぁぁぁ!」
アイリンの悲鳴が響き渡る。
俺は動けない。
動こうとするのだが、痛みで全身が硬直している。
その手を、足が踏み漬けにした。
「くだらぬ結末であったな」
相手が素っ気なく言った。
「総員、陛下を守れ!」
レイヴンの必死の声が響き渡る。
だが、遅いだろう。
相手の速度には敵わない。
俺は、命を振り絞って叫んだ。
「砦は落とした! 全員ハイラルに撤退せよ!」
つづく




