「不出来な息子だ」
その日、ミルドの王宮には伝令が馬で駆けてきた。
それを聞いたものが青ざめ、次のものへ伝達する。
次々に青ざめていく顔ぶれ。
そして、話を伝え聞いた大臣は、やはり表情を青くした。
「どうした、コーア」
王が静かな口調で言う。
大臣はわななく声で言った。
「閣下、耳をお借りします」
そして、耳元で伝える。
「クラフト王子、結婚の儀にて花嫁を連れ蓄電の知らせ」
王はそれを聞き、物憂げに中空に視線をやる。
「くれてやったつもりの息子だったが……人質の任すら果たせんとは。まったく、不出来な息子だ」
「ハイラルの国の大臣が直々に交渉にやって来るそうです」
「今更ハイラルの魔術なしには国は成り立つまいな?」
「たった二十人の魔術師ですが、開拓研究両分野で目覚ましい成果を残しております」
「よかろう」
王は重々しい声で言う。
「交渉に応じよう。丁重にな」
「はっ」
大臣が部下に耳打ちする。
それを見る王は、苦虫を噛み潰すように、小声で呟いた。
「出来すぎている」
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「ここまで来れば一安心かな」
「雨が酷い、私も貴方も真っ黒だ」
俺の言葉に、リーシェが返す。
「こんな雨では火も起こせぬな。どうする?」
リーシェに問う。
ミリィは反応しない。
抜け殻になったようだ。
今はただ、抱きしめる。
二親を殺した。その絶望はどれほどのものだろう。
俺には想像もつかない。
「ハイラルの流儀があります」
そう言って励ますように気丈に微笑むと、リーシェは四方に柱を立てテントを張り、その下で何やら呪文を唱えた。
太陽だ。
小さな太陽が、俺達を照らしていた。
「大したもんだ。流石はハイラル。剣術畑の人間が魔術まで浸かるか」
「サバイバル関係の術ばっかりですけどね。水もほぼ無限に作り出せますよ」
「それは心強いな。当面の目標は、食料、いや――」
ミリィに視線を向ける。
「ミリィの魔力を封じる、なにか」
「それは大局的な目標としては良いですが、目下のところ食料でしょう。食べずにはいきていけません」
はっとする。
「どうかしてる。お前がついててくれて良かった。抜け殻になったこいつと」
そこまで言って胸が痛む。
嫉妬に狂う感情豊かな彼女も、今は中身が何処かへいって空洞になってしまったようだ。
あれは、俺だけに見せる顔。
俺だから見せる我儘。
「儂の罪じゃよ」
(俺も、罪人だ……)
「ともかく、お二人の衣装は目立つ。私はここから北に三リンギある街へ行って服を調達してきます。お二人はしばし、ここで」
「太陽の魔術はどうする?」
「貴方が覚えるんですよ。魔女の婿君なんですから」
そう言って悪戯っぽく微笑むリーシェだった。
「俺が、魔法を?」
怪訝な表情をする俺だった。
「ええ、貴方が、魔法を。貴方が私に剣を教えてくれたように、私が貴方に教えます」
「……頼む」
人口超小型太陽を見ていてふと、思いついた。
「そうだ」
呟くように言う。
「青空だ」
「青空?」
「ミリィといつか見ようと約束していた。それを見れば、ミリィも正気に戻るかも知れない」
「この国を横断することになりますね」
リーシェが思案するように言う。
「まずは着替えと食料です。相談は今後」
「すまない」
そう言うと、リーシェは俺の手をとって魔術の指南を始めた。
ミリィが嫉妬しやしないかと思ったが。
少しも反応しなかった。
なんだか大事なものを失ったような寂しさを感じた俺だった。
今思えば、夢のような時間だった。
嫁がいて、理解のある義父がいて、周囲から慕われる生活。
今までの俺にはなかったもの。
俺の兄貴が独り占めしていたもの。
「魔女を追放せよ!」
老近衛兵の叫び声が脳裏で反響する中、なんとか魔術を一つ習得した。
つづく




