「馬鹿な、そんなこと……」
「この国はなにか、そう考えているようだね」
おかしいと思った。
ミリィが目を覚まさない。
仙人が眼の前にいるというのに。
仙人クラスの魔力を持つ者ならば、ミリィはすぐに気取るはずだ。
「……君の心は読みづらいな」
男は苦笑する。
「生憎、対策済みだ」
「しかし、私についてどうやら疑問を抱いているようだ」
一つ、頷く。
「これだよ、緊急の対策で、これを作った」
そう言って、男は手を差し出す。
その指に、輪がかかっている。
「これは力を抑える指輪だ。魔力にしろ筋力にしろ、制限をかける。そうすることで各地を徘徊しているという黒い靄の対策としたのだ」
「……ホムンクルスとはなにだ?」
「わかりやすく言えば、人造人間かな」
一つ、と息を吐く。
「馬鹿げた技術力だ。何者だ、貴方は」
「なに、ただの仙人の一人さ。ただ、この技術があれば、一つの階層に一人しか存在できない仙人も各地に移動できるようになるかもね」
そう言って、彼は斜め上空を向く。
「また、来訪者。君を探しているようだ。すぐに呼ぼう」
その次の瞬間、アイリンが目の前に現れる。
「こ、ここは……?」
戸惑うように周囲を見回すアイリンの目が、俺を見てげんなりとする。
「また若い女の子にちょっかいをかけているんですか、陛下は」
そう言えば腕の中ではホムンクルスの子が暴れている。
「いや、これは、違う。というか、この子は敵だったと言うか。ややこしいな」
噛まれて、咄嗟に相手を突き飛ばす。
ホムンクルスの少女は地面に着地すると、主君の前に降り立った。
「それ、陛下の悪癖ですよ。それどころじゃないのですがね、現状は」
「なにかあったか?」
アイリンは深刻な表情で黙り込んだ。
「ミルド国落城」
静かな声でアイリンは言葉を紡ぐ。
その様子から身構えていたが、驚嘆した。
膝から崩れ落ちそうになった。
「馬鹿な、兄上は? 兄上が負けるはずなど……」
狼狽する俺を見かねたのか、アイリンはふいとうつむいた。
「兄君は捕虜の身の上……」
「馬鹿な、そんなこと……」
しばらく、言葉が出てこなかった俺だった。
あの兄が、負けた?
そんな姿、今まで一度とて見たことはなかった。
つづく




