「奇妙な術だ」
霧の中で気配を感じて、俺達は立ち止まった。
「感じているか?」
「感じておりますれば」
二人、頷きあう。
殺意ではない。
しかし明確な警戒心。
「出てきてはくれぬか、我々に害意はない」
そう言って武器を手放す。
妻も杖を放り出す。
それは防衛を忘れたわけではない。
徒手空拳でも敵を倒せるという自信からくる行動。
(……やや慢心かな)
しかしいざ対人戦となれば殺しは躊躇うところだろう。
風を切る音がした。
短剣。しかも六方向から。
「奇妙な術だ」
そう淡々と言い、二本を握りしめる。
残り四本は俺の体を貫くかと思ったところで霧となって消えた。
「幻影魔法の一種、というところでしょうか。それにしてもこの速度でこの幻影は見事なものです」
ミリィが淡々とした口調で言う。
彼女も察していたらしい。
俺は武で知り、妻は魔で知る。
俺達はその分野でも極まった存在と言えた。
(やはり慢心かなあ)
けど自分より弱い相手を甚振る趣味もないし。
「怒ってはいない。出てきてくれ。対面で話をしよう。この国のことも聞きたい」
糸で繋がっているらしい。短剣が引かれる。
しかし、動かない。
俺の握力が相手の腕力を圧倒的に抑え込んでいるからだ。
「話が、したい」
俺は淡々と言う。
そのうち、糸がだらんと垂れたのがわかった。
気配が去っていくのがわかった。
「この国のこと、何かわかると思っていたのですがね」
「……全く、今夜の宿もままならぬとは」
溜め息混じりの俺達だった。
この国は霧に包まれている。
その他のことは、一切、わからない。
つづく




