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追憶のワルプルギス  作者: 伊藤修平
黄金の夜編
8/14

第8話「享楽」

前回までのあらすじ

不死身の少女、アタナシアは村を燃やし尽くした魔女狩り【灼炎のバンガルシア】を打ち倒し、己の正体や過去を知る為に旅立った。

 ガレリア王国の南西部に、私達の(あなぐら)はあるの。

 王国最大の黒魔女集会。「黄金の夜」の集会所。

 黒魔女って言っても、派閥自体はそこそこあるわ。国家間の派閥とか、思想の派閥とか。うちの集会は黒魔女のくせに穏健派なのよ。

 元からそうというより、そうならざるを得なかった、って感じかしらね。魔女狩りが激化したからよ。ま、要は日和ったのね。それで愛想尽かして抜けた奴らも相当数いるわ。北部じゃ名の知れた「人狼のギャバン」とかもそうよ。まぁ、あの人はちょっぴり行き過ぎ感は否めないけど。

 悪魔に固執しすぎなのよ。どこの集会所でも煙たがられるわ。


 まぁ、そのギャバンもひと月前、いよいよ灼炎のバンガルシアに殺されちゃったみたいだけどね。

 そしてその翌日にそのバンガルシアまで殺されちゃった!

 もうそれから話題はそれで持ち切りよ。そもそも、黒魔女ってそんなに数がいる訳じゃない。まぁそりゃそうよね。この国……いいえ、ここら一帯、オルテンシアと呼ばれる大陸じゃ、数千年前から魔女はご法度よ。多くの人は、なろうだなんて思わない。

 まぁだから、誰がどうなったとか、何をしたとか、それなりに共有されるのね。

 でも、今回は違った。まずバンガルシアの行動が意味不明ね。あいつ、頭のネジは外れてるんだけど、正しく外れているというか……。サラマリア教の旧派で、古・原点主義のトライアングルの人間だから、まぁ然もありなんって感じなんだけどね。


 そもそもサラマリアは人殺しはダメって戒律だからね。私達魔女は人と思われてないみたいだけど?

 まぁ、「聖戦としてやむを得ない場合は仕方がない」ともあるし、魔女は異端で、宗教を脅かす敵ってことなんでしょうね。


 で、そのバンガルシアが村を焼いた。村人を殺した。普通に考えて有り得ないのよ。そこにギャバン以外の魔女が居たと聞いたこともないし。

 ギャバンが死んだ後っぽいんだよね。


 そしてそのバンガルシアもその後に殺された。正体不明、真相不明の魔女に。魔女かどうかも分かんない。まぁとにかく、あのギャバンを殺せるほどとんでもないのが居たってことね。


 まぁ、それを踏まえればギャバンが村を焼いた理由も何となく察せられるけどね。きっと村人達にその存在は大切にされていたんだろうね。それでギャバンに刃向かって、返り討ち。

 そんな感じかしらね。


 で、あなたがその正体不明の魔女だっての?


 私はそう聞いた。路地裏で声をかけてきたボロボロの、浮浪者みたいな女の子に。裸の上から、大きくて黒いレザーの上着を羽織った女の子だ。左耳にはクラゲのイヤリングをしている。きっと、元は綺麗な銀髪だったんだろうなという髪も、土や泥にまみれてゴワゴワになっている。


「そうだよ。……話を聞く限り、私が殺したのは……多分そいつで間違いない」

 そう言って女の子は頷く。

「なんか証拠とか無い?例えば戦闘の詳細とか、なんで勝てたのか、とか。ギャバンを殺せるってよっぽどだよ?あいつの使う精霊の炎は他の奴らと規模も威力も違うからね」

 炎とは、太陽の偽物である。炎の精霊もそれに倣うのだが、より歪んだ自己矛盾の精神こそが精霊を強くする。奴の心の「正義感」が強ければ強いほど、「悪を誅する為の悪(黒魔術)」という矛盾も強まっていく。


「……私、不死身なの」

 女の子がそう言う。不死身?まぁ、もし本当にそうなら、奴の脅威である炎での即死は無くなる訳だ。「畜生」と私たちを蔑む無敗の奴なら、女の子一人に対して慢心もあっただろう。


 すっ、と懐から女の子が銀食器のナイフを取りだし、ズブッと自分の首に突き立てた。

「なっあんた何して……!」

 咄嗟のことで驚いてしまった。女の子は力が抜けたように、壁に背をつけてへたり込む。ドクドクと血が溢れている。目は虚ろだ。

 ……頭のおかしい自殺志願者か……?

 そう思ったが、突然、彼女の喉元に炎がついた。だが、熱さは感じない。その炎の中、傷が塞がっていき、パチッと女の子は瞬きをして立ち上がった。


「……どう?分かってくれた?」


 面白い。

 面白い!面白い!面白い!

 散々退屈だったんだ。魔女狩りにビビってるババア共にそれに従う腰抜け共。

 この子となら、そんな下らない退屈も覆せる。


 そんな予感がした。



次回更新は本日20:00です。

魔女と接触したアタナシアの行く末とは……。

お楽しみに!

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