第7話「殺意」
前回までのあらすじ
不死身の少女、アタナシアの村に訪れた魔女狩り、【灼炎のバンガルシア】はアタナシアを庇う村人達を次々燃やし殺害した。
そして、養母であるグレーテルおばさんがアタナシアを庇って炭へと姿を変える……。
アタナシアの内側で湧き出るのはただ一つの感情。【殺意】であった。
───今回───
アタナシア視点
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バンガルシア視点
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アタナシア視点
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バンガルシア視点
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アタナシア視点
身体中に、信じられないほど力が入る。奥歯が砕けるんじゃないかと言うほど、噛み締める。呼吸が荒くなり、呼吸の度に肩が揺れる。
今までの人生で最も強い感情だった。
【殺意】
目の前のこの男を殺すことだけを考えていた。
「来たれ来たれ炎の精よ。照らせ照らせ永久の闇」
男が何かを唱え始めた。
殺す。しかし、どうやって?ろくな武器は無い。引っ掻いたり噛み付いたりで人間を一人殺せるかどうかは怪しい。何か武器を……。
そう考えていると、目の前に炎が迫ってきた。間一髪で左に回避したが、間に合わなかった。右腕が燃える。
「ッあああ!」
無数の棘で刺されたような痛みが走る。地面に転がって火を消そうと試みるが、なかなか消えない。
ただの炎じゃない。さっき何かを唱えていたのは、魔法だとか魔術だとかの類ということか。
右腕の感覚が消える。神経が焼ききれたのだろう。
どうする。どうすればやつを殺せる。
とにかく、距離を取られるのはまずい。そう考えて、私は男に向かって駆けて行った。
私は死な無いんだ。痛みさえ耐えれば、こいつは殺せる。恐れずに攻める……!
複数の火の玉が様々な方向から飛んでくるが、私は被弾しながら、感覚が無くなるより早く、奴の懐へ立ち入った。
「お前の炎はお前が喰らえ……!」
残された左腕で思いっきりみぞおち目掛けて殴りつけた。
しかし、当たるが早いか私の腕は肘から先がストン、と落ちた。男が持っていたマチェーテで切り落とされたのだった。
拍動に合わせてピューッと血が吹き出す。男は私の左腕を掴んで火で炙った。
あまりの痛みに絶叫する。
「……ふむ。不死身とは言え、再生力が強い感じではないのか。死んだ際にリセット、と言うのが近いのだな」
男はそう言って、私を蹴り飛ばした。
「四肢を落として傷口を焼けば、無駄な抵抗を防げるという訳だ。持ち帰って何度も殺そう」
そうして、両腕が機能せず起き上がれない私の右足めがけてマチェーテを振るった。
重たい切り味で、膝にめり込む。しかし、1度で切り落とせなかったようで、もう一度引き抜いたマチェーテを振り下ろした。
真っ赤な血が吹き出して周辺の草木を濡らす。
まずい。このまま傷を焼かれて死ねなければ、詰んでしまう。
男が私の傷口を焼こうと火を出してしゃがむ。
その瞬間、身体をよじって左足で顎に蹴りを入れた。そうして、腕の使えない上体は這うようにして、左足で地面を蹴りながら、燃え盛る私の住んでいた家へと入った。
炎が身を焼いていく。耐えようとするが、あまりの痛みにのたうち回った。想像を絶する痛みだった。ぎぎぎ、と筋肉が無意識に硬直していく。
やがて、煙を吸ったのか、息苦しくなって呼吸が出来なくなり、私は死んだ。
即座に目を覚ます。身体は燃えない炎に包まれながら、細胞を再生していた。
途端、家の炎が消える。
あの男が出した炎であるのだから、消すのも自在と言うことだろう。
だが、これで自主的なリセットは不可能に───
チャリ、と手元に何かが当たった。
見るとそれは、銀食器のナイフだ。
……そうか。ここは……毎朝おばさんの朝ごはんを食べていた……リビングか。
少しだけ、視界が滲むのを腕で拭った。
感傷は、後だ。
***
炎は消えた。
あとはゆっくり四肢を落としていくだけだ。
無駄な足掻きはやめて出てこい畜生よ。
炎が消えたことで周囲は暗くなっているが、お前の同行くらい、星の灯りで十分だ。
バッ、と燃えカスの家から影が飛び出す。
瞬間、黒焦げの布のような物が視界を覆う。
目くらましのつもりか。畜生の浅知恵だ。
布を払い除ける。
すると、真正面から右手にナイフを持って襲いかかってきていた。
目くらましの隙に死角に入ればいいものを。やはり、畜生は畜生だ。ナイフを持った手を掴んで、マチェーテを振った。
……おかしい。あまりに軽すぎる
まるで……空を切ったような
ドスッと、掴んだはずの右手で喉元を刺された。いや。違う。右腕は今掴んでいる。
ここに右腕は2本ある。
***
あの時、火が消えたあと、ナイフを掴んだ状態で、もう一本のナイフで自分の腕を切り落とした。
そうしてそのナイフで首をかききってリセット。そうすれば、腕のダミーを作り出せる。
それを持って襲いかかれば、視界の悪い夜ではダミーであることは気付かれない。
「炎さえ消さなければ、こんな簡単な仕掛けに引っかからなくて済んだのにね」
そう言って、私は全体重をかけて、喉に突き刺したナイフを引き下ろした。
ドバッと血の雨が私に降りかかる。
***
息をしようとすると喉から空気が漏れる。詠唱ができない。自分の血で溺れるだと……?ふざけるな。こんな最期。畜生が知ったような口を聞きやがって。
殺してやる。
殺して……やる。
殺……して……。
***
男は地面に倒れ込んで、動かなくなった。
途端に足の力が抜けた。
先程焼かれた際に服は燃え尽きてしまって、今は何も身につけていない。
そのせいで、夜風に身体が震える。
屍になった男から上着を剥ぎ取って、それを羽織った。グレイとマリーの元へ向かう。長い間、ふたりぼっちにさせてしまった。
……なんて……伝えるべきだろうか……。
二人の両親も……死んでしまった。
本当のことを伝えるべきだろうか。でも……本当のことを知ればきっと二人は私を……。
いや。違う。そんな考えは卑怯だ。
恨まれたって、憎まれたって、伝えないと。それが私の……私という存在の責任だ。
草原を裸足で歩んでいく。まばらに転がる小石が足に刺さる度に痛いのかそうではないのか、良く分からない感覚になる。
二人の元に辿り着く。
二人は……身を寄せあって座っていた。
「おかえり……どうしたの、お姉ちゃん」
マリーが私の姿を見て聞く。当然だ。家事かもしれないと駆けていって、裸に身の丈に合わない上着を来て戻って来るのだから。
「……ごめんなさい」
開口一番、私はそう言った。
「私のせいで……私を殺しに来た人のせいで……村の人みんな……二人のお父さんも……お母さんも……みんな……」
二人は黙って聞いている。顔を見れなかった。恐ろしかった。どんな顔で私を見ているのかを想像すると……とても……。
「……ごめんなさい。城下に行けば……孤児院がある。今はとりあえずそこで」
残酷な話だ。両親が死んだから孤児院に行け、なんて。納得できるわけが無い。それでも、私に今できる精一杯がこれしかなかったのだ。
二人の手を引いて、孤児院へ向かう。マリーのすすり泣く声が聞こえた。
再び城下につく。
どんどん、と孤児院の戸を叩いた。
「なんですかぁ?」と、間延びした声で院の人間が出てくる。
「2人を……お願いします」
「はぁ?てか、なんですあんたその格好……」
「すみません……近いうちに騒ぎになると思いますが……二人は、ここからしばらく行ったところにある村の子です。その村は……もうありません。ですからお願いします」
そう言い残して私は踵を返した。
背後で何か言っているような気がした。きっと恨み言だろう。親を間接的に殺して、罪悪感から向き合いもせず、ここから立ち去ろうとしている無責任な人間へかける言葉なんて、そのくらいのものだろうから。
私はまた、燃え尽きた村へと来た。
目の前に広がる光景が嘘のようだった。
「あぁ……そっか……もう、会えないんだ……」
ふと、口から零れていた。途端に涙が溢れてくる。
果てしない喪失感と、虚無感が私を襲う。
もう……あの幸せは帰ってこないのか。
もう……もう……会えないんだね……。
大声を出しながら泣いて、泣いて、泣き疲れて、気づいたら私は眠っていた。
目を覚ますと、いつも通りの青空がそこにはあった。
夜中見たのとは違って、明るくなるとより一層、燃えた村の惨状が確認できた。
それから、私は皆のお墓を作ることにした。
とは言っても、本格的なものではない。遺体を探すのは大変だろうし、何より黒焦げになったみんなを見たくはなかった。
土を軽く盛って、石を置く。
私と、双子を除いた村の人数分、それを作り花を添えた。
「それじゃあ……行ってきます。」
私は立ち上がってそう言った。
どこかに行くあてがある訳でもない。
ただ、目的だけを携えて。
私はきっと、知らなければならない。
私が何者なのかを。
魔女なら……私の不死身について何か知っているのだろうか。
そうして一歩、一歩と歩き出した。
今までの幸せをここに遺していくように。
次回更新は6/24朝8:00
ついに長い長い序章は終わり、喪失を経た少女は己の正体を記憶を求めて旅に出る。その先に待ち受けるものとは。
お楽しみに!




