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第7話「殺意」

前回までのあらすじ

不死身の少女、アタナシアの村に訪れた魔女狩り、【灼炎のバンガルシア】はアタナシアを庇う村人達を次々燃やし殺害した。

そして、養母であるグレーテルおばさんがアタナシアを庇って炭へと姿を変える……。

アタナシアの内側で湧き出るのはただ一つの感情。【殺意】であった。


───今回───

アタナシア視点

***

バンガルシア視点

***

アタナシア視点

***

バンガルシア視点

***

アタナシア視点

 身体中に、信じられないほど力が入る。奥歯が砕けるんじゃないかと言うほど、噛み締める。呼吸が荒くなり、呼吸の度に肩が揺れる。


 今までの人生で最も強い感情だった。


【殺意】


 目の前のこの男を殺すことだけを考えていた。


「来たれ来たれ炎の精よ。照らせ照らせ永久の闇」

 男が何かを唱え始めた。

 殺す。しかし、どうやって?ろくな武器は無い。引っ掻いたり噛み付いたりで人間を一人殺せるかどうかは怪しい。何か武器を……。

 そう考えていると、目の前に炎が迫ってきた。間一髪で左に回避したが、間に合わなかった。右腕が燃える。


「ッあああ!」

 無数の棘で刺されたような痛みが走る。地面に転がって火を消そうと試みるが、なかなか消えない。

 ただの炎じゃない。さっき何かを唱えていたのは、魔法だとか魔術だとかの類ということか。


 右腕の感覚が消える。神経が焼ききれたのだろう。

 どうする。どうすればやつを殺せる。


 とにかく、距離を取られるのはまずい。そう考えて、私は男に向かって駆けて行った。


 私は死な無いんだ。痛みさえ耐えれば、こいつは殺せる。恐れずに攻める……!


 複数の火の玉が様々な方向から飛んでくるが、私は被弾しながら、感覚が無くなるより早く、奴の懐へ立ち入った。


「お前の炎はお前が喰らえ……!」

 残された左腕で思いっきりみぞおち目掛けて殴りつけた。

 しかし、当たるが早いか私の腕は肘から先がストン、と落ちた。男が持っていたマチェーテで切り落とされたのだった。


 拍動に合わせてピューッと血が吹き出す。男は私の左腕を掴んで火で炙った。

 あまりの痛みに絶叫する。


「……ふむ。不死身とは言え、再生力が強い感じではないのか。死んだ際にリセット、と言うのが近いのだな」

 男はそう言って、私を蹴り飛ばした。

「四肢を落として傷口を焼けば、無駄な抵抗を防げるという訳だ。持ち帰って何度も殺そう」

 そうして、両腕が機能せず起き上がれない私の右足めがけてマチェーテを振るった。

 重たい切り味で、膝にめり込む。しかし、1度で切り落とせなかったようで、もう一度引き抜いたマチェーテを振り下ろした。

 真っ赤な血が吹き出して周辺の草木を濡らす。


 まずい。このまま傷を焼かれて死ねなければ、詰んでしまう。

 男が私の傷口を焼こうと火を出してしゃがむ。

 その瞬間、身体をよじって左足で顎に蹴りを入れた。そうして、腕の使えない上体は這うようにして、左足で地面を蹴りながら、燃え盛る私の住んでいた家へと入った。


 炎が身を焼いていく。耐えようとするが、あまりの痛みにのたうち回った。想像を絶する痛みだった。ぎぎぎ、と筋肉が無意識に硬直していく。

 やがて、煙を吸ったのか、息苦しくなって呼吸が出来なくなり、私は死んだ。

 即座に目を覚ます。身体は燃えない炎に包まれながら、細胞を再生していた。


 途端、家の炎が消える。

 あの男が出した炎であるのだから、消すのも自在と言うことだろう。


 だが、これで自主的なリセットは不可能に───


 チャリ、と手元に何かが当たった。

 見るとそれは、銀食器のナイフだ。

 ……そうか。ここは……毎朝おばさんの朝ごはんを食べていた……リビングか。

 少しだけ、視界が滲むのを腕で拭った。


 感傷は、後だ。


 ***


 炎は消えた。

 あとはゆっくり四肢を落としていくだけだ。

 無駄な足掻きはやめて出てこい畜生よ。

 炎が消えたことで周囲は暗くなっているが、お前の同行くらい、星の灯りで十分だ。


 バッ、と燃えカスの家から影が飛び出す。

 瞬間、黒焦げの布のような物が視界を覆う。

 目くらましのつもりか。畜生の浅知恵だ。

 布を払い除ける。

 すると、真正面から右手にナイフを持って襲いかかってきていた。

 目くらましの隙に死角に入ればいいものを。やはり、畜生は畜生だ。ナイフを持った手を掴んで、マチェーテを振った。


 ……おかしい。あまりに軽すぎる

 まるで……空を切ったような


 ドスッと、掴んだはずの右手で喉元を刺された。いや。違う。右腕は今掴んでいる。

 ここに右腕は2本ある。


 ***


 あの時、火が消えたあと、ナイフを掴んだ状態で、もう一本のナイフで自分の腕を切り落とした。

 そうしてそのナイフで首をかききってリセット。そうすれば、腕のダミーを作り出せる。

 それを持って襲いかかれば、視界の悪い夜ではダミーであることは気付かれない。


「炎さえ消さなければ、こんな簡単な仕掛けに引っかからなくて済んだのにね」

 そう言って、私は全体重をかけて、喉に突き刺したナイフを引き下ろした。

 ドバッと血の雨が私に降りかかる。


 ***


 息をしようとすると喉から空気が漏れる。詠唱ができない。自分の血で溺れるだと……?ふざけるな。こんな最期。畜生が知ったような口を聞きやがって。

 殺してやる。

 殺して……やる。

 殺……して……。


 ***


 男は地面に倒れ込んで、動かなくなった。

 途端に足の力が抜けた。

 先程焼かれた際に服は燃え尽きてしまって、今は何も身につけていない。

 そのせいで、夜風に身体が震える。

 屍になった男から上着を剥ぎ取って、それを羽織った。グレイとマリーの元へ向かう。長い間、ふたりぼっちにさせてしまった。

 ……なんて……伝えるべきだろうか……。

 二人の両親も……死んでしまった。


 本当のことを伝えるべきだろうか。でも……本当のことを知ればきっと二人は私を……。


 いや。違う。そんな考えは卑怯だ。

 恨まれたって、憎まれたって、伝えないと。それが私の……私という存在の責任だ。

 草原を裸足で歩んでいく。まばらに転がる小石が足に刺さる度に痛いのかそうではないのか、良く分からない感覚になる。


 二人の元に辿り着く。

 二人は……身を寄せあって座っていた。

「おかえり……どうしたの、お姉ちゃん」

 マリーが私の姿を見て聞く。当然だ。家事かもしれないと駆けていって、裸に身の丈に合わない上着を来て戻って来るのだから。

「……ごめんなさい」

 開口一番、私はそう言った。

「私のせいで……私を殺しに来た人のせいで……村の人みんな……二人のお父さんも……お母さんも……みんな……」

 二人は黙って聞いている。顔を見れなかった。恐ろしかった。どんな顔で私を見ているのかを想像すると……とても……。

「……ごめんなさい。城下に行けば……孤児院がある。今はとりあえずそこで」

 残酷な話だ。両親が死んだから孤児院に行け、なんて。納得できるわけが無い。それでも、私に今できる精一杯がこれしかなかったのだ。

 二人の手を引いて、孤児院へ向かう。マリーのすすり泣く声が聞こえた。


 再び城下につく。

 どんどん、と孤児院の戸を叩いた。

「なんですかぁ?」と、間延びした声で院の人間が出てくる。

「2人を……お願いします」

「はぁ?てか、なんですあんたその格好……」

「すみません……近いうちに騒ぎになると思いますが……二人は、ここからしばらく行ったところにある村の子です。その村は……もうありません。ですからお願いします」

 そう言い残して私は踵を返した。

 背後で何か言っているような気がした。きっと恨み言だろう。親を間接的に殺して、罪悪感から向き合いもせず、ここから立ち去ろうとしている無責任な人間へかける言葉なんて、そのくらいのものだろうから。


 私はまた、燃え尽きた村へと来た。

 目の前に広がる光景が嘘のようだった。


「あぁ……そっか……もう、会えないんだ……」

 ふと、口から零れていた。途端に涙が溢れてくる。

 果てしない喪失感と、虚無感が私を襲う。


 もう……あの幸せは帰ってこないのか。

 もう……もう……会えないんだね……。


 大声を出しながら泣いて、泣いて、泣き疲れて、気づいたら私は眠っていた。


 目を覚ますと、いつも通りの青空がそこにはあった。

 夜中見たのとは違って、明るくなるとより一層、燃えた村の惨状が確認できた。


 それから、私は皆のお墓を作ることにした。

 とは言っても、本格的なものではない。遺体を探すのは大変だろうし、何より黒焦げになったみんなを見たくはなかった。

 土を軽く盛って、石を置く。

 私と、双子を除いた村の人数分、それを作り花を添えた。


「それじゃあ……行ってきます。」

 私は立ち上がってそう言った。

 どこかに行くあてがある訳でもない。

 ただ、目的だけを携えて。


 私はきっと、知らなければならない。

 私が何者なのかを。

 魔女なら……私の不死身について何か知っているのだろうか。


 そうして一歩、一歩と歩き出した。


 今までの幸せをここに遺していくように。



次回更新は6/24朝8:00

ついに長い長い序章は終わり、喪失を経た少女は己の正体を記憶を求めて旅に出る。その先に待ち受けるものとは。

お楽しみに!

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