第6話「崩壊」
前回までのあらすじ
不死身の少女、アタナシアはある事件からその不死性が村全体に露呈する。忌避されると考えていた彼女を反対に受容する村人達。
しかし、そこに現れたのは「不死身の魔女」を殺害しに来た魔女狩り【灼炎のバンガルシア】だった。
───今回───
アタナシア視点
グレイとマリーと共に、城下を歩き回った。
オシャレな服を見たり、美味しいものを食べたり、人形劇を見に行ったり……気づけば夕暮れだった。
昨晩のこと、自分の正体に対する不安は、帰る時には胸の内から殆ど消え去っていた。それが一過性のものだということも自覚はしていたが、現実から逃避できているうちは逃避していたかったのだ。
石畳から土へと道の種類が変化する。
草むらをかき分け、自然豊かな村へと戻っていく。
私のいるべき場所へ。
私を受け入れてくれる場所へ。
黒煙が一本、紺色へと姿を変え始めた宵の空に立ち上っていた。
……煙?
火事かな。
あれ。あの方向って……。
私達の村だ。
心がざわつく。嫌な予感が頭を殴りつけてきて、いてもたっても居られなくなった。
「二人はここにいて。火事かもしれないから、私が戻ってくるまで動いちゃダメだよ!危ないから!」
「う、うん。わかった」
グレイがそう返答した。
煙に向けて走り出す。
息が切れる。肺が痛くて、喉が熱くて、それでも止まらなかった。止まれなかった。
おばさん……おじさん……みんな……!
ごうごうと音を立てて村全体が燃えていた。
ボヤとか事故の出火と言った感じはしない。
まるで……誰かに火をつけられたような……。
「アタナシア!!」
おばさんの声が聞こえた。顔の左半分が爛れている。
「グレーテルおばさん!!どうしたの!?一体何が……」
そう聞いた私の肩を力強く掴んでおばさんが叫んだ。
「今すぐ!!ここから逃げなさい!」
背後に男の姿が見えた。金髪を坊主にした男の姿。その男が……炎の玉を操っている。
村のみんなが燃やされていく。
皆、男に立ち向かっては返り討ちにあって、呻きながら、のたうち回りながら、火に包まれて絶命していく。
「……おじさんは……?」
おばさんは何も言わずに俯いた。
そんな……なんで?
こんな私でも……受け入れてくれた優しい人達なのに……なんであんな殺され方しなくちゃいけないの?
ガサッと、草を踏みつける音がする。
あの男が、数メートル先から、私を睨みつけていた。
「……そうか。お前が」
冷たい目をしていた。まるで、虫でも踏み殺す前のような……冷たい目。
咄嗟に走り出していた。
恐ろしくなったからではない。
この男なら、人殺しを厭わないという確信があったから。そして何より、理由は分からないけど……私を殺したがっているのが、目で分かった。
さようなら。おばさん。ごめんなさい。みんな……本当に、ごめんなさい……。私がここにいたから、あの男は……。
きっとあの男は私を殺しに追いかけてくる。
だから、おばさん。せめておばさんだけは生き残って──────
突如、自分の影が前方に伸びた。何か光源が迫ってきている。振り返ると、それは
半径1メートルはあるかと思われる、巨大な火の球だった。
死ぬ。
そう直感した時だった。
影がひとつ、私と火球の間に飛び込んだ。
刹那、飲み込まれる。
光源と一体になったことでその影の正体が露わになった。
おばさんだった。
こちらを見て……悲しそうに微笑んでいた。
炎は容赦なく燃え盛る。為す術もなく、何かを為す暇もなく、おばさんは……一塊の炭へと姿を変えた。
横たわっている。
跪いて、体に触れた。じゅうっと音を立てて手のひらの皮膚が焼ける感覚がする。
「ねぇ……おばさん……起きてよ」
ゆさゆさと、体を揺らす。返事はない。
「ねぇってば……嫌だよ……」
返事は、ない。
「……なんで?なんで……私なんて庇ったの……?死なないんだよ?私。死んだって平気なんだよ?ねぇ。おばさん……ねぇってば……何か……答えてよ……」
燃え盛る炎の音だけが、すっかり暗くなった夜空に響いている。
なんで?
みんな……優しい人だったのに。
こんな、死なない化け物な私を……受け入れてくれた場所なのに。
なんでこんな殺され方しなくちゃいけないの?
この人達が……何をしたっていうの……。
なんで……?
なんで……。
なんでって……私がいたから。
私がこの村にいたから。
人間じゃない私を……庇ったから。
不死身なのに。死なないのに。
みんなを死なせた。死なせた。殺した。私のせいだ。
私?私が悪いの?
私が化け物だから?私が?私?
違う。違う違う。そんなはずはない。だって私は殺してないじゃないか。殺してなんかない私はやってない。私は何も悪いことしてない。2人も悪いことなんてしていない。善人だ。悪人なんかじゃない。死ぬ道理なんて殺される道理なんて。殺したやつが悪い。殺した。殺した。誰が?あの男だ。あいつだ。あいつがあいつがあいつが
「殺してやる」
初めて湧き出した感情が、私の全身を支配していた。
次回更新は本日20:00です。
果たして、生まれた殺意の往く涯は。
お楽しみに!




