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第5話「来訪」

前回までのあらすじ

記憶喪失の不死身の少女、アタナシアは魔女らの手により生贄となった。しかし、その特性故に現れた悪魔は手が付けられないほど高位の存在で、魔女達は惨殺された。

そして、その悪魔は「記憶を無くす前」のアタナシアを知っているようだった。

また、魔女狩り【灼炎のバンガルシア】は魔女の残党から「不死の魔女」としてアタナシアの情報を得るのだった。


───今回───

アタナシア視点

***

グレーテルおばさん視点

 あの血にまみれた夜の翌日、私はおじさんとおばさん、そして村のみんなに、私のことを話した。

 不死身であること。それをついこの間知ったこと。私は人間じゃないかもしれないこと。あの時現れた悪魔が私について知っていそうなこと。


 それでも、皆は私を受け入れてくれた。優しく温かく、受け止めてくれた。その優しさに、私はまた泣いてしまった。


 少し気晴らしに街に行ってきなよ、とおばさんが私に少なくない銀貨を渡して送り出してくれた。今はとにかく、不安なことを忘れたかった。部屋に籠っていると、嫌な事ばかり考えてしまいそうだった。だけど、ここで自分から街に行く、なんて言うと何だかみんなを避けているように感じられるかもしれなかったから、おばさんの機転が私にはありがたい。


「アタナシアお姉ちゃん。僕たちも一緒に行くよ」

 グレイがマリーを連れて、私についてきた。

「本当に、本当に……ありがとう。助けてくれて。お姉ちゃんは私のヒーローだよ」

 マリーが私に抱きついてそう言った。


 この二人を助けられたのは……あの残酷な夜において、私の中での唯一の救いだ。

「うん。行こう」

 二人の手を引いて、城下へ向かった。


 ***


 アタナシアは、私達が5年前の戦火で戦災孤児になったところを、養子として引き受けた。

 思うと、やせ細って言葉も話せないような状態から、よくあんなに元気で柔和な女の子に育ったものだ。

 血は繋がっていない。それでも、私達は家族だ。あの子にはいつも通り明るく笑っていて欲しいし、幸せになって欲しい。それが私と夫、ヘンゼルの願いだ。人間じゃないかもしれないなんて、大した問題じゃない。どんな存在であろうと、アタナシアはアタナシアだ。

 それに、不死身だからなんだ。それでなにか害がある訳でもない。またいつも通りの日々が戻ってくるはずだ。またいつも通り、畑を耕して裁縫をして街に遊びに行って……そうやっていつか大切な人と結ばれて。

 あの子ももう17だ。そろそろ、そう言う話も出てくる年頃だろう。


 日も暮れ始めた頃。トントン、と扉をノックする音が聞こえた。

「はーい」と言って、扉を開ける。

 そこには、金髪を刈り上げた、細身の男性が立っていた。手には何か麻袋を持っている。

 ものものしく不吉な雰囲気をまとっていた。

「お邪魔します」

 男はそう言ってずかずかと家の中に入っていく。非常識な人だ。

「ちょっ、何勝手に……!」

 そう言って止めようと腕を掴むが、見かけによらず力が強い。

 そのままリビングの食卓まで立ち入ると、勝手に椅子に座った。


「なんなんですかあなた!警察呼びますよ!」

「あぁ、お構いなく。すぐに終わります」

 何がお構いなくだ。構うに決まっているだろう。

「この辺に不死身の魔女がいるという話を聞いたんですが、何か知りませんか?」

 不死身の……それはもしかして、アタナシアのことを言っているのか……?

「……誰からそんな話を聞いたのです?」

「"これ"からですよ」

 そう言うと、男はどん、と食卓に持っていた麻袋を乗せた。嫌な予感がする。

「ここら一帯を拠点にしていた魔女でね。2メートルほどの大きさの狼に変身するんですよ」

 パッと、男が手を離す。麻袋の口が重力に任せてストン、と落ちると、中に黒焦げの大きな狼の頭が見えた。

「これがそれです」

「ひっ」と、情けない声を出して後ずさってしまった。この男、ずっとこの首を持ち歩いているのか……?


「……その不死身の魔女を見つけて……どうするんです」

「決まっているでしょう。殺しますよ。不死身だろうが関係ない。死ぬまで殺します。何度も何度も殺します。人に仇なす畜生は駆除しなくてはなりません」

 ……狂っている。畜生はどっちだ。この男なら、ハッタリだとかそんなものじゃない。本当にアタナシアを死ぬまで殺そうとするだろう。そんなこと、絶対にさせない。

「お引き取りください。不死身の魔女なんて知りません」

「……今、少し眉をひそめましたね?目も一瞬泳いだ。あなたは嘘つきだ。知っている。不死身の魔女を」

 男は目を見開いて、そう言った。

「知らないです。あの子は、魔女なんかじゃ」

「不死身のなにかはいるということですね。それはいけない。そんなもの、いていい訳がない。あぁ、畜生だ。この世の秩序を乱している」


 パン!と、乾いた音が鳴った。私が思わず、平手打ちをしてしまったのだ。聞くに絶えなかった。


「あの子は畜生なんかじゃありません。明るくて優しくて、誰かのために動く勇気を持った、ただの女の子です」

「……何故?何故庇うのです。そんな化け物」

「化け物ではありません。アタナシアは、私の私達の大切な娘です」


 男はニヤリと笑った。

 不吉な笑顔で、私を見据えた。


「あー……あーそうか。娘さん。娘さんね……。畜生が畜生を、生んだのだな」

「いい加減に」

 我慢出来ずにもう一度平手打ちしようと手を上げた私を、男は上目遣いに睨めつけた。

 吸い込まれるような、暗闇のような目。

 ボソボソと、何か独り言を言っている。

 途端に、火の玉が中空に現れた。


「な……に?これ……」


 唖然としていると、バンッと、リビングへ繋がる扉が勢いよく開いた。扉の外で盗み聞きをしていたのか、猟銃を手にした、夫の姿がそこにはあった。

「グレーテルッ!そいつから離れろ!!」

 火の玉が揺らぐ。


 真っ赤な炎が、部屋を埋めつくた。




次回更新は6/23の朝8:00。

村に戻ったアタナシアが目にするものとは。

お楽しみに!

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