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追憶のワルプルギス  作者: 伊藤修平
黄金の夜編
12/14

第12話「魔術」

前回までのあらすじ

不死身の少女、アタナシアはある事件の後、自身の正体を知る為にアナスタシアという名で魔女となった。

そして、魔女狩りはアタナシアを追う───

「アナスタシアさんって、どうして黒魔女になりたいってなったの?」

 ノワールと現在同棲している家で、黄金の夜の一員である魔女からそう聞かれた。

 薄い桃色の髪の眼鏡をかけた女の子。「傀儡のソフィ」というらしい。


 それより黒魔女になりたいってなった理由……嘘の設定を作るのを忘れていた。

 流石に、「実は不死身で、そのせいで魔女狩りに村を焼かれた。悪魔とも関わりがありそうだった。だから自分の正体や無くした記憶を知りたい。あわよくば不死身の魔法を解きたい」とは言えない。


「あー、アナスタシア、悪い男に騙されて借金背負わされたんだって。だからその男を呪うために黒魔女になりたかったんだって」

 ノワールが台所からそう言った。口から出まかせもいいところだ。


「ひっどーい!絶対に呪ってやろうよその男!」

 ギュッと、私の手を握ってソフィは言う。

「そうだね。協力してくれるとありがたい」

 そう言って手を握り返した。

 ここに、存在しない男を呪う同盟が出来上がったのだった。


「てことは魔術がなんなのか自体分かってないのよね?」

「えぇ。まあ」

「そういう事ね。私が呼ばれたのって」

 ソフィは納得した風だった。

「じゃ、まず魔術とか魔法がそもそもどういうものなのか教えてあげましょう」

 彼女はそう言って眼鏡をクイッと上げた。


「魔法とは、古からの世界のルールを利用したものなの。自然の力、世界の力を借りているのね。一応区別として、そういう力を利用する仕組みや力そのものを【魔法】、魔法を使うこと、使われた魔法を【魔術】と言うよ。名詞と動詞みたいなものね」


「さて、ここで問題です。魔法を使う方法はどんなものがあるでしょうか」

「……詠唱とか……魔法陣?」

 記憶をたぐってそう答えた。

「おっ大体正解!厳密には、魔法陣には召喚儀式用と魔術用の二種類があるの。まぁ大概使うのは魔術用だね」


「……魔女ってなんなの?」

 私はずっと抱えてきた疑問を投げかけてみた。

「うーん……説明が難しいなぁ。私もそんなに詳しい訳じゃ無いんだけど、黄金の夜の長老は『歴史の被害者』とか何とか言ってたよ」

 ……余計にわからなくなってしまった。


「まぁ、魔女って言っても一纏めに扱える程単純じゃないからね。黒魔女と白魔女とか、魔女集会によっての考えの差とかあるし」

 そう言ってノワールがことっと、紅茶を私たちの前に置いた。

「そもそも白魔女とか黒魔女の区別ってなんなの?」

 私が聞くとソフィが答えた。

「よく聞いてくれました!黒魔女とは主に武力として魔法を主に扱う者のことです。その一方で、他者を守ったり癒したりする魔法を主に扱うのが白魔女」

 それを受けてノワールが言う。

「白魔女は結構容認されてるわ。ま、おばばはそういうの、人間の利益の為だけに区別をした差別だとか言ってたけど。言わんとすることは分かるわ。白魔女を都合のいい道具か何かだと思ってるやつらもいるもの」


「……二人も白魔術を使えるの?」

「無理」

 ノワールが即答する。

「ちょっと難しいかも……」

 ソフィが申し訳なさそうに言う。


「魔法って得手不得手がかなりはっきり出るからね。壊すのは簡単でも治すのは難しいってことよ。まぁ、だから黒魔女の数が多くて、魔女=悪い、みたいな印象になってる節はあるわね」

 ノワールはそう言って紅茶を一口含んだ。


「その得手不得手ってどうやって分かるの?」

「この前のブローチが基準になるかな……。ほら、アナスタシアさんは黒曜石の心臓だったでしょ?……あら?」

「そうなのよ。イレギュラー過ぎて得意も不得意も分かんない。いきなり難易度の高い命の魔法に手を出す訳にもいかないし。だからあんたを呼んだってワケ」

「なるほどねー……」


「そうね……アナスタシアさん、ちょっと服を脱いで背中を見せてくれる?」

 ソフィが言った。

「え……?」

「あー大丈夫大丈夫。変なことしようって訳じゃないから。いや、変なことではあるのか?」

 ノワールがそう言った。

「とにかく、ソフィに任せとけば、基本の四大魔法のうちどれが一番得意か分かるからさ」


 渋々承諾して上の服を脱ぐ。

 すると、背中にぴとりと何かで濡れた指が当たる感覚がした。

 ソフィが何か、私の背中に書いている様だ。魔法陣だろうか。


「あんまり期待しないでね。専門は無機物で、生き物にはあんまりやったことがないから……」

 書きながらソフィが言う。

「えっ。大丈夫なの?それ……というかなんの魔法?」

「ソフィは【傀儡のソフィ】だからね。特殊な液体で書いた魔法陣に詠唱をかけて、それを操るのよ」

 ノワールが説明する。

 一体それで何が───


 途端、背後からソフィが耳元で囁く。吐息が耳に当たってぞわぞわした。

「からくりからくりおいでませ。ひと、ふた、み、よ、根元は口に。いつ、む、なな、や、先はこちらに。ここのつ、とおつで手の内へ。あなたの名前はアナスタシア」


 だらん、と、身体の力が勝手に抜ける。

 意識が薄ら遠のき始める。身体の感覚がほとんど無い。夢の中にいるような感覚。


「さ、アナスタシア。立って」

 ソフィがそう言うと、勝手に私の身体が立ち上がる。

「座って」

 ストン、と体が勝手に座る。


「アナスタシア。あなたが得意な四大魔法は火、水、土、風のどれ?」

 ソフィが聞くと、口が勝手に動く。

「風」


「へぇ、風なんだ。風の精霊って……」

「秘密が好きね。なぁに?アナスタシア。あなた、私達に隠し事でもあるの?」

 茶化すようにソフィが言った。


「ある」


 勝手に口が動いてしまう。

 まずい。不死身なことを口にしてしまうかもしれない。

 不死身がバレるのはダメだ。

 それだけは───


「あっ!ごめんなさい!!魔法解いて無かったわね!喋らなくていいよ。アナスタシア。秘密なんて誰にでもあるもの」


 そう言うと、再びソフィが私の耳元に口を近づけて囁いた。

「からくりからくり去られませ。ここのつ、とおつで手の外へ。いつ、む、なな、や、糸は途切れて。ひと、ふた、み、よ、口はただの口」


 ふっ、と身体に感覚が戻る。

「……すごい。こんなこと出来るんだ……」

 えっへん、と言ってソフィは胸を張った。


「とりあえず、得意の四大魔法はわかったし、そこを伸ばすだけね」


 そう言って、ノワールは紅茶を飲み干した。



次回更新は本日20:00。

アタナシアは風の魔法を学ぶ。

お楽しみに!

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