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追憶のワルプルギス  作者: 伊藤修平
黄金の夜編
11/14

第11話「目的」

前回までのあらすじ

不死身の少女、アタナシアは自身の富士見を魔女と魔女狩り、両者にバレてはいけない状態。しかし、自身の過去や正体を知るために、そして魔女狩りに対抗する力を学ぶためにアナスタシアとして魔女になった。


───今回───

ノワール視点

***

ライト(トライアングルの魔女狩り)視点

 叫び声で、目が覚めた。

 隣の部屋……アタナシアの居る部屋からだ。

 ノックをして扉を開けると、彼女が布団にくるまって座っていた。

 じっ……とこちらを見て震えている。


「アナスタシア……?」

 はっ、と気付いたような顔をして、彼女は立ち上がる。

「……ごめんなさい。うるさくしちゃって」

「いいわよ。別に。怖い夢でも見た?」

「……分からない。怖いような……悲しいような……懐かしいような……」

「……バンガルシアを殺した日の夢?」

 アタナシアは首をかしげる。

「そうだったような、違うかったような気がする。もしかしたら……無くしている記憶なのかもしれない」


 無くしている記憶。

 黄金の夜の集会所、ハンプティダンプティに向かう前に聞いた。5年ほど前から向こうの記憶が無いのだとか。戦争でのショックで忘れてしまったのか、それとも別になにか要因があるのかは分からない、と。


 アタナシアが重くるしそうに口を開く。

「昨日の結果……『命を扱う魔法が得意』って話だったよね。もしかして……不死身の魔法をかけたのは、私自身なのかな」

「さぁ。でも、その可能性は十二分にあるでしょうね。それと同じくらいには、他人にかけられた魔法の可能性もあるわ。例えばあなたの生みの親が戦争で死なないように、とか」

「生みの親……」

「どの線にしろ、あなたの不死身を解くには、その無くした記憶を思い出すのが手っ取り早いかもしれないわ。魔法の内容や儀式の形式、詠唱が分かれば打ち消し自体は簡単にできるもの」


「……記憶を取り戻す魔法とかはないの?」

 無くはない。無くはないが……

「そういう精神系の魔法ってかなり希少ね。私も話を聞いたことがあるくらいで、あったことは無いわ。西の隣国に確かいたはずだけど……このガレリアにはいないわね。もっと言うと黄金の夜にいる精神系の魔女はカナリアだけよ」


「そう」

 と言ってアタナシアは少し気落ちした様子だった。

「ま、急いては事を仕損じるって言うでしょ。まずは魔法使いとして、魔法を学んでいきましょう。西にはいつでも行けるんだし」

「いつでも行けるなら今すぐにでも行けない?」

 希望に満ちた目でグイッと顔を近づけてくる。

「ダメよ。前に一回言ったでしょ。魔女にも国同士の軋轢(あつれき)があるって。それなりの立場になって適切な手順を踏まないと、確実に門前払い。最悪紛争ね」

 アタナシアはまたしょんぼりと顔をうつむける。ころころ表情が変わるところが見ていて飽きない。

「まぁでも、それなりの立場にならすぐになれるわよ。言ったでしょ。命に関する魔法が得意なのは希少だって。魔女の世界じゃ、それだけで権威になるんだから」


 とにかく、今問題なのはそこじゃない。

「それよりも問題なのは、アナスタシア。あんたが不死身以外にカードを持っていないこと。まぁ不死身一本であのバンガルシアを倒しはしたみたいだけど……。言ったでしょ。もし不死身がバレれば1万人のバンガルシアと戦うことになるって」

 私はアナスタシアの目を見据えて言った。

「魔法での武力を、あなたは学ぶべきよ。だから当面の目標は、実戦で使える程度に魔法を練習すること」


 ***


 ガレリア王国北部の山奥に俺とヴァローナは来ていた。なんでもここにある洞窟に血の海が広がっていると報せを受けて。

 近隣の村が一夜で消え、野次馬根性で覗きに来たバカが遭難。捜索中にその惨憺たる有様の洞窟を発見って流れらしい。

 なまじ、その一夜で消えた村の原因が俺らんとこの先輩、バンさんのやったことってのもあって俺達は調査に来ていた。

 人狼のギャバンを殺したあと、何故かバンさんはここに残った。仔細は知らせてくれなかったが、もう一人危険な魔女がいるだのなんだの言っていたな。

 本当にその後すぐにバンさんが死んだから、妄言なんかじゃなかったんだろう。俺たちの把握していない邪悪な魔女がいた。一体どこに潜んでいたのやら。


 鬱蒼と茂る森の中に、その洞窟はあった。

 蝿が飛び回っている。

 ……あー……嫌だ。マジで入りたくない。どうせろくなことになってねぇよ。結構離れてるはずなのにうっすら腐った肉と血の匂いが漂ってくる。

 そこを同僚の魔女狩り、ヴァローナがずんずか進んでいく。

 2mある見た目通り、なんとも豪胆なやつだ。

「なぁ……マジでいくの?」

 俺が聞く。

「当たり前だ。入らなければ確認は出来ないだろう。ついでに掃除も任されたんだ」

 ヴァローナが振り返って言う。はねっ気のある黒髪が犬のしっぽのように動く。

「掃除って……俺達は街の便利屋さんかなんかかよ」

「ほら。行くぞ。ライト」

 彼女が俺の腕をガシッと掴む。日頃から鍛えてるのが効いているのか、ものすごく力が強い。

「いーやーだー!行くならひとりで行けよ!多少耐性はあるけど血の海とかろくな光景じゃないもん!」

 散歩から帰るのを嫌がる犬のように踏ん張って見たが、ズルズルと引きずられる。

「男のくせに女々しいな」

「お前が女のくせに男らしすぎるだけだろ!」


 洞窟へと引きずられていく。

 ブブブブ、と不快な羽音がこだましている。

 胃の中がひっくり返りそうな匂い。


 しばらく行くと、洞窟の穴の先に開けた空間があることが分かる。


「こ……れは……」

 俺より前を進んでいるヴァローナが訝しげな声を出した。

 俺も彼女の横から恐る恐る中を覗き見た。


 見なければよかった、と心底後悔した。

 地面は一面赤黒く染まり固まっており、所々腐ってグズグズになった肉、そこから見える白い骨、そこに止まって食事をしている蝿の群れ。

 全てが不快であった。

 全てが不吉であった。


 人かどうかも分からない、まさしく残骸と呼べるそれは空間一面に広がっている。

 濃縮した地獄だ。


「……悪い。本当に……これ無理だ俺。吐く」

 本当に気持ちが悪かった。喉がえずく。

「情けないぞ。場所が場所だ。黒魔女が関わっている可能性を考えれば、こんなもの」

 そういいながらヴァローナは口からゲロをこぼしていた。

「やっぱお前もキツイんじゃん!!しんどいならしんどそうにしろよ!!涼しい顔しながら吐くんじゃねぇ!」

 俺がそう言うと彼女は

「そうもいかんだろ。これは私たちに与えられた使命だからな」

 と言った。俺も俺で大概だけどお前もお前で大概だよ。


「……まあ、手をつけなけりゃ始まらないか……。ちゃっちゃと俺らの手で地獄を消してあげますか……」


 ヴァローナが水の精を呼び出し、水の玉を作る。それを地面や壁を擦っていき、汚れをある程度落とす。異様な速度で真っ赤になっては外に捨ててまた作ってを繰り返していた。


 徐々に床が見えてくると、何やら紋様が現れる。

「……案の定……というか」

「そうだな。この魔法陣……おそらくこの惨状の原因だな」

 魔女が悪魔を呼び出してしくじって殺された……まぁ、そんなところだろうと言うのが、言葉にしなくとも俺達の共通認識であった。


「でもよぉ。ギャバンだぜ?曲がりなりにも100年生きた魔女だ。多少の悪魔に対して対抗策ぐらい持ってるだろ。それに、悪魔至上主義だったろ?そんなヘマするかなぁ」

「なにかイレギュラーがあったとか」

「例えば?」

「生贄の魂の格が、ギャバンの想定をはるかに超えていた……とか?」

「そんな格の高い希少な魂どこにあんだよ」

 少し考えてからヴァローナが言う。

「……もしかしたらバンガルシアの言っていたもう一人の危険な魔女と関係があるのかも」

 バンさんの言っていた危険な魔女。確かに関係がないとは言いきれ無さそうだ。


「それなら、俺達の当面の目標はその魔女を探すこと……か?」

 敵討ち、という訳では無いが、この惨状ともしも関わりがあるとするなら、放っておくとヤバそうだ。

「魔女もバンガルシアを誰が殺したのか分かっていないらしい」

「そもそもこの国にあいつ殺そうなんて考えられる魔女いんのか?」

 そのくらい、あの人は魔女にとって脅威だったはずだ。

「……それなら、訳ありそうな新人の魔女を探すのが吉か。それが俺達の当面の目標になりそうだな」

「そうだな。このことは上に掛け合ってみよう」と、ヴァローナが言う。


 ……少し、ワクワクするね。

 魔女狩りにとって悩みの種だった、過激派のギャバンは死に、魔女にとっての脅威、バンさんも死んだ。


 互いの緊張状態を産んでいた要因が同時に消え、均衡が崩れたこのタイミングで……正体不明の脅威か。


 この先にどんな混沌が待っているのか。興味が湧かないわけがない。


次回更新は6月26日8:00。

目的の確定したアタナシアとトライアングルの魔女狩り。それぞれの手を着実に進めていく……。

お楽しみに……!

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