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追憶のワルプルギス  作者: 伊藤修平
黄金の夜編
10/14

第10話「窖へ」

前回までのあらすじ

不死身の少女、アタナシアは自身の正体を知る為、そして魔女狩りに対する対抗策を得るために魔女となることを決意した。

そして、自身が不死身であるということは魔女と魔女狩り両方にバレてはいけない……。


───今回───

アタナシア視点

***

ノワール視点

***

アタナシア視点

***

黄金の夜長老視点


 一見すれば、ただの閉まった酒場であった。これといって変哲は無い。「ハンプティダンプティ」と書かれた看板を掲げている木造の酒場。

 ノワールに同伴して、裏口より店内に至る。蝋燭の灯光が作り出す薄ぼんやりとした暗がりの中、十人強の黒いフード付きのローブを纏った集団が立っていた。皆、ノワールと同じ装い。即ち、彼女らがこの国最大の黒魔女集会「黄金の夜」の魔女ということだろう。

 皆、胸元には様々な宝石をあしらった、生き物や植物、幾何学模様などのブローチを着けている。


「……ノワール。そこの娘は?」

 重く冷たい老婆の声だった。

「魔女になりたいって子。ハンターでも無さそうだし、連れてきたって構わないでしょ?」

 老婆が大きなため息をつく。

「はぁ。……全く、あんたって子は。そういう場合、まずはあたしら長老に掛け合って身辺調査だろうに。これだから若いのは……」

「自分がババアだって自覚はあるんだ。良かった良かった。まだボケては無いみたいね」

「減らず口を」

 そう言うと、老婆のローブの中からカマキリのような腕が幾つも生えてきた。それを見てノワールが言う。

「身内同士の殺し合いは禁止でしょ」

「そこの小娘は身内では無いがな。ハンターかもしれぬ。殺さねば」

「……ごめん。いや、ごめんなさい。おばば。この子は私の友達なの。ハンターなんかじゃない。傷付ける真似はしないで」

「最近、耳が遠くっての。誰かさんが言うようにババアなもので」

「お願いします。この子は本当に……」


「誠意を示すなら!」

 そう言って、老婆は鎌を私の首元に突きつけた。

「言葉より行動ではないかね」

 ギチギチ、と音を立てて少しずつ喉が押さえつけられていく。薄皮が切れたらしく、一滴、ついっと血が垂れた。


「カナリア」

 そう老婆が声をかけると、黒いローブの集団の中から一人、「はい」と返事をしてこちらに近寄る。

 フードを外すと、顔の正中線を境に髪の色が左右で白と黒に別れている。また、左目の瞳孔が〇。右目の瞳孔が×になっている。

「彼女は「審判のカナリア」。真実を暴くものだ」

 老婆がそう言うと、そのカナリアと呼ばれた女が私の頭を両手で掴んだ。


「これより一つ、質問を行う。偽れば、お前の心臓はたちまち潰れる」


 ……想定通り。事前にシミュレーションした展開だ。

 下調べされれば、私が不死身であることがバレるかもしれない。だから、こういう突然の紹介にならざるを得なかった。しかし、それでは良くて門前払い。悪くて口封じに殺される。後者の場合、不死身であることがバレるリスクがある以上、「審判のカナリア」の質問を突破することで、身の潔白を証明出来るということだ。

 生憎、私はハンターではない。

「魔女狩りか」とか「私たちの敵か」という質問に、なんの後ろめたさも───


「『来たれ来たれ炎の精よ。照らせ照らせ永久の闇』この一節に聞き覚えは?」


 ***


 しまった……!

 いや、良く考えれば想定できた自体だ……!

 こいつらは穏健派!!

 こいつらが今一番恐れているのは「灼炎のバンガルシア」を殺した存在!

「身内ではない何か」が魔女狩りを殺したのだ。狭いコミュニティを形成していた魔女にとって、それは何より異質で恐ろしいのだろう。自分たちの知らない「超常的存在」がいることが怖いのだ!!


 だから今、あのババアどもが恐れているのはアタナシアが「ハンター」であることではない。

「灼炎のバンガルシア」と関わりがあるかどうか……!

 一般人が炎の精霊を使役する黒魔術の呪文など、知る由もない。

 この質問はそう言う意図だ……!


 アタナシア……どうする……。


「いいえ。聞き覚えはありません」

 アタナシアが毅然とそう言った。

 パッとカナリアが手を離すと、彼女は自力で立っている。


「……死んでいない。おばば。こいつ、嘘ついてないよ。本当に魔女になりたいただの一般人だ」

 カナリアがババアの方を振り返ってそういう。

「そうかぁ。それでは、歓迎しなくてはな。新たな同胞の誕生を祝おうじゃないか」


 ***


 ……死ぬかと思った。いや、死んだは死んだんだけど……。ここまで気合いで踏ん張ったのは初めてだ。一か八かの賭けだったけど、心臓の再生が早くて助かった。


「さぁ、魔女になるということはこれまでとは別の世界に踏み入る。生まれ変わるということだ。今までの名は捨てねばならぬ。これより名乗る名を告げよ」

 老婆が私に向かってそう言う。

 それなら、もう決めてある。


「……アナスタシア。それが私の、これからの名前」

「アナスタシアか。良い名だな。ようこそアナスタシア。黄金の夜へ。さぁ、髪を人束これで切り給え」

 そう言って老婆が何やら紋様の刻まれたナイフを手渡して来る。私は、後ろ髪を20cmほど、バッサリと切って渡した。すると、老婆はそれをグツグツと緑に煮えたぎった鍋に投げ入れた。鹿の角でそれをゆっくり混ぜる。しばらくしてから、老婆が鹿の角を引き上げる。するとそこには、ここにいる魔女がつけているようなブローチが引っかかっていた。


 周囲がざわつく。

 ……何かおかしいのだろうか。

 ノワールの方を見ると、ノワールも驚いたような顔をしていた。

「これは……黒曜石じゃな……」

 老婆が言う。

 黒曜石のあしらわれた、心臓のブローチ。


「……このブローチ、その人にとって向いている魔法を表してるの。ルビーなら炎系、サファイアなら水系、みたいな感じで」

 ノワールが言う。

「……黒曜石はなんなの?」

「あんまり前例がないから断言はできないわ。諸説があるんだけど……命に関わる魔法が得意って言われてるね」

「命……」


 私の不死身と何か関係があるのだろうか……。もし、私自身で不死の魔法をかけたのだとしたら……魔法を学ぶことで、何かしらの記憶を思い出したりするのだろうか。


「ん。待って」

 私はノワールの胸元を見た。

「ノワールはなんでつけてないの?」

「そりゃあ自分の手の内晒すとかバカのすることでしょ」

 彼女はおどけたようにそう言った。

「全く……しきたりを軽んじおってからに」

「私はそう言う硬っ苦しい伝統とか権威主義嫌いなの」

 そう言って、ノワールは私に肩を組んだ。

「ま、何はともあれこれであんたは正式な魔女よ。よろしくね。アナスタシア」


 ***


 ……黒曜石なのもそうだが……。ブローチが心臓の形?

 聞いたことがないね……。


 幾何学模様はその形状によって伸ばせる系統の多さがはっきりする。

 動物や植物はそのモチーフ毎に得手不得手が分かる。


 ただ、肉体の一部と言うのは……どの魔女の伝説を遡っても例がない。

 この小娘……一体何者だ。

 ノワールは……何を連れてきた。



次回更新は本日20:00。

正式に魔女となったアタナシア。今後の行動方針が決まる中、魔女狩りの影が迫る……。

お楽しみに……!

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