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シュレディンガーはたぶん猫。  作者: 鰯野つみれ
第五章「蟲の女王、イオ=テ=ラ・ルエガ」
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第35話◇蝉の季節の終わりと俺たちの未来について【最終話】

「きっとあれも、ニュースになるな……」

「夏の終わりの怪異、ってか」


俺たちは芝生に寝転がって、しばらく空の爪痕をぼんやりと眺め続ける。

ツクツクボウシが鳴き続けている。


「生きてるんだな……俺は、まだ」


ふいに、口をついて言葉が出てきた。

あちこち痛くて、実際傷だらけだし、頭も痛い。

けど、生きている。


「片山。俺な。素粒子のこと、勉強したいかもしれない」


俺は今考えられる未来について、隣にいる男に語ることにする。

今後のための道を、率直に考えてみる。


「シュレがたまに言ってた宇宙とかシュレたちの種族のこととか、半分以上分からなかったけど、勉強したら、ちょっとは俺にも分かるかもしれないし」


ここ数カ月の間に俺たちに起こったことを整理しようと思っても、知識がないとまとまらない。


まとめたい、のだ。

シュレや虫の謎の生態も、俺たちの戦いの軌跡も、素粒子体だけになったアキオさんのあの瞬間についても、一体何が起こってどうなっていたのか、まだ頭の中で何一つ整理が追い付いていない。

ちゃんと知りたい。


それは俺の一生かけてもいい、大事なことだと思うんだ。


「けど、そっちの進路に行くなら、全然理系の頭じゃないから、たぶん今年の大学受験は絶対間に合わない。それに、まだ勉強に身が入る気はしない……色々、時間が欲しい」


未来にしたいこと、は固まった。

でも、それを実現するためには、色々とハードルがある。

まずは親の説得からか。


片山は特に茶々を入れたりはせず、黙って俺の話を聞いていた。

最後まで聞いて、一言、「そうか」と応えた。


「俺は……俺も、もう少し、考えてぇな。けど、何か、人を守れるような仕事がしたい」


しばらく沈黙を保っていたが、ぽつりと、片山も未来について口走る。

出会って初めて、ちゃんと奴の口から具体性がある「進路の希望」についての発言を聞いたかもしれない。


「……いいんじゃないか。意外と向いている気がする」

「そうか?」

「ああ」


実際に向いてそうだな、と俺は思う。

それは決して適当な相槌ってわけでなく。

片山がこう見えて、とても優しい人間だからだ。


寝そべったままの俺たちだったが、そろそろシュレが残した黒の軌跡も霧散しかけていた。

木陰にいたはずが、いつのまにか太陽の位置が動いており、おかげで今はジリジリとした太陽が腕の皮膚を焼いている。


「くそ暑いな……」

「だな……日差しが痛い、けど、もう少し……」


そう文句を言いながらも、それでも俺たちは体をくっつけ合ったまま、芝生に身を預け続けている。


ふいに、片山のその手に頭を撫でられた。

まるできょうだいにするようなやり方で、撫でられていると感じた。

ここ数カ月分の働きを労うように、全ての暴力と喪失を宥めるように、未来に繋がるように、そしてどこか、勇気付けられているようにも感じた。


コイツだって頑張ったり失ったりしたし、未来がある……。


俺も、今された以上に片山を労ってやらなければ、と素直に思った。

そうじゃないと、対等じゃない。

そしてそういうことをこの人間にやってやれる男は、もう今のところこの世に俺だけしかいないんだろう。


既にその行く末を頼まれてもいる。

最期、微笑んで消えたあの人の顔が、脳裏を過ぎった。


とはいえ、今は疲れ果てているのか、体の方はピクリとも動かなかったが。


その手を振り払わないまま、俺は目を閉じて、与えられるままの感触をただ味わった。

そろそろ本格的に秋が来るんだな、と考えながら。


例え今はまだ暑くとも、いずれ蝉の季節は完全に終わるのだ。

ツクツクボウシも、もう鳴かなくなるに違いなかった。







【おわり】

これにて「シュレディンガーはたぶん猫。」完結です!!

お付き合い下さりありがとうございました!!


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