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シュレディンガーはたぶん猫。  作者: 鰯野つみれ
第四章「パソコン室の黒い幽霊、変異の件」
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第29話◇撤退と顛末

頭の外にそんな思考を追いやって、今はただ、片山の動揺を落ち着かせることにひたすら集中する。


やがて、先ほどの電話先の人がやってきた。

四十代くらいの女の人だった。


「あなた……もしかして、あなたが、宮本くん?」

「あ、はい」


俺の顔を見るなり、その人は言い当てる。

こちらはまだ名乗ってもいないというのに、そんなことをしなくてもとっくに俺がそうだと知っている、とでも言いたげに。


「私、川島と言います。蒼と、アキオからも話は聞いているわ。そう、あなたが……ありがとう。大変なことをさせてしまったわね。もう大丈夫」


ぽん、と肩を叩かれて、俺は自分の肩が緊張のあまりガチガチに固まっていたことをようやく知る。


「……っ、はい」


自然、じわりと視界が緩んだ気がした。


「詳細な事情は後で聞き取るとして。ただ、アキオが消えて腹部を損傷した怪我人もいるってことは、おそらく前の二つの事件との関連を疑って、確実にマスコミが来るわね。だからまず、何を置いてもあなたたちをここから避難させるのが優先事項。いい?話はそれからよ」

「はっ、は、い」


そうだ。関連性を疑われる。

虫のことは、マスコミは全く知らない、でもこれは「この街で起こった、腹部を狙われた妊婦の猟奇事件」のちょうど三件目になるのだ。

さっきシュレが言ったことが正しいのなら。


「そんな悪意の矢面に、成人もしてない学生ふたりを晒せるもんですか。いい?あなたたちは何も見なかった。第一発見者はこの私、このアパートの管理人でアキオの後見人。私が管理人としてたまたま訪れたら、こうなってた。だから私が通報した。周囲の人間には、例え親やお友達でも、絶対にここにいたことは言わない。いいわね?」

「はい……っ」


その有無を全く言わさないあえての強い口調は、きっと俺たちを守るためだ。

それがきちんと伝わってくるので、俺は全てをこの人に任せよう、そうすべきだと考える。


「下に車を呼んでるから、それに乗りなさい。家の近くまで送らせる。あと、しばらく蒼は別の場所に保護します。どうせアキオにべったりだったことはすぐバレるだろうし、あれはこのままこのアパートに置いておくと特にマスコミの的になりやすい見た目だろうから。アキオに似過ぎてるものね」


川島さんはちらりと片山に視線を投げて、「万が一そうなった時」を想定したのか、ひどく痛そうに顔をしかめる。


「あの子が落ち着いたら、連絡を取らせるわ。きっとよ。名刺を渡しておくわね、そちらからも何かあったらここへ」


川島さんは手早く胸ポケットから名刺を取り出して、「はい、ちゃんと家まで持って帰るのよ」と俺の手にしっかりと握らせてくる。

絶対なくさないようにしなきゃと誓って、俺はそれをポケットになおし込んだ。


「はい、片山のこと、お願い、します」


伝えて、俺は改めて傍らの片山に話しかける。


「片山」

「みや、みやもと」


涙でぐちゃぐちゃになった目が、何とか俺の姿を捕らえはしたようだが、全く視界は定まっていない。

ここにいる、と知らせるように一度その腕を握ってから、耳元で伝える。


「シュレはうちに連れてく。落ち着いたらちゃんと連絡しろよ。分かったな?俺も連絡する」


カクリと頭が揺れるだけの返事を、何とか確認して。

そして俺はその場を早急に去ることになった。


家に帰ると父さんと母さんと真由美に「片山のアパートで例の猟奇事件の三件目が起こった。片山の知人で、俺も会話したことがある人が事件に巻き込まれた」とだけ伝えて、自室にこもった。

これらはきっともう数時間後になれば大々的に報道されることなので、全く隠す情報じゃないだろう。



次の日、一応俺は学校に行った。

あの後のパソコン室の様子を知りたかったのと、世間様やマスコミの動きを知るためと、昨日の夕方に青い顔になっていた松岡と山瀬の様子を確かめたかったためだ。


パソコン室の備品は、予測していた通りに完全にダメになっていたらしい。

そして虫に電磁力を食らわせた時のあの音と光が完全に校外にも漏れていたようで、通報を受けた警察がすぐさま駆けつけたそうだ。

そして酷いありさまのパソコン室を確認。

警備員の人も異様な失神状態になっているのが発見されたため、こちらも病院に運ばれたようだ。

無事朝には意識を取り戻したそうだが。


「やっぱり、この辺りの土地が全体的に呪われてるんじゃないのかな?昔戦場だったとか、お墓があったとか、大災害があったとか……きっと何か、不吉なことがあったんだよ……」


誰かが噂しているのが、耳に届く。


パソコン室の大荒れと三件目の猟奇事件は、ほぼ同時刻に同じ街、ご近所で起こっている。

一件目二件目の事件も同じく校区内だ。ここまで集中している以上、実は全てに関連があるのかもしれない――というのはマスコミや全校生徒・教師たちや、全く関係ない地域のヤジ馬感覚の人たちをも含めた、「みんな」が考えつくことだった。


ここ最近は見られなかったマスコミたちが、学校周辺にも戻ってきていた。

それぞれの猟奇事件で姿を消したと思われる「妊婦さんじゃない関係者」たちの犯行の痕跡や事件後の足取りも、警察とマスコミが全力で追いかけているにも関わらず「誰のことも何も全く掴めない」状況のため、最近は本気で非科学的なことが起こってるのかも?と騒ぐ人が出てきているほどだ。


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