表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シュレディンガーはたぶん猫。  作者: 鰯野つみれ
第四章「パソコン室の黒い幽霊、変異の件」
26/35

第26話◇猫海戦略と夜の学校潜入

足早に歩き、虫がいるなら殺していくつもりで進む。

しかしやけに今は敵の姿が見当たらず、俺は少し不思議な気持ちのまま、片山のアパートの前に辿り着く。

すると、アパートの階段の一番下に片山が腰かけていて、その辺りには、見たことがない勢いで大量の猫がたむろしていた。


「……何やってんだ、お前ら」

『ふっふっふ。圧倒的だろう、我が軍は!!』


呆れている俺に、猫擬態したシュレが得意げに話しかけてくる。

どうやらこの猫たちは奴が集めたものらしい。


『あの学校をぐるっと取り囲む形で、この地域のノラ猫たちに虫を追い込んでもらったのだ。ちょくちょく猫集会に参加したりなどして、この街のボスをやっている銀太郎に顔を繋いでもらってな。彼らが尽力してくれたおかげで、今全ての第三世代の虫があの学校にいる』

「えっ、普通にすごいな、猫たち。というか、猫集会で顔繫ぎって、お前……。たまに姿見かけない時があると思っていたら、影でこっそりそんなことしてたのか」


なるほど、それで道中には全く虫がいなかったのだ。

褒められたシュレは「ふふん、そうだろう、すごいだろう」とばかりに得意げだ。

尻尾がピンピンと伸びている。


『人海戦術ならぬ、猫海戦略だな。そしてカタヤマの虫を殴る戦い方を参考にした』


地球の生物では、何でか猫のみが、素粒子体のラ・ルエガの姿をナチュラルに追うことができる。

それはもう分かっていたのだが、まさかここまでの機動力が発揮できるとは。


猫は、五十匹ほどはいるだろうか。

全員がしっかりありつけるようにと、紙の小皿をいくつも用意した状態で餌とおやつが配られていた。

給仕係の片山の手によって。

お仕事が完了した後のご褒美ご飯は格別に美味いようで、全員がガツガツと勢い良く食っている。


猫一匹一匹を守るようにバリアーがつけられていて、それには猫自体は全く傷つけない形でごく微弱な電流が通っていた。

猫パンチを食らわすと、自然と感電する形で虫を無力化できる、という仕組みと思われる。

素粒子体に手を加える代わりに「猫の爪や牙を中心に、鎧のようにシュレの素粒子体を纏わせる」ことで効果を発揮させる形式のようだ。

要するに、片山が毎度何にも考えずにやっている「手や足に力を纏わせた状態で蹴ったり殴ったり」の喧嘩殺法をしっかり分析した上で猫用に変換した、ということのようだ。


お世辞でなく、これは確かに強い。

片山ほどの威力はなくとも、数の力があるところに「圧倒的な軍」みを感じる。

人の目にも触れにくい、例えば狭いところなんかに逃げ込んだ虫でも漏れなく追えるだろう。


そんな奥の手を出してくるあたり、シュレも今日は一段と気合いが入っているようだ。

分からんでもない。

だって、第四世代が新たに誕生する前に、学校に集められているらしい全ての第三世代を倒し切ってしまえば、もうそれで全ての虫との戦いが終わる、ということなのだから。


あとは俺が、最後に手元の始祖蝶を殺せばおしまいだ。


果てなき戦いの日々だと感じていたが、遂にここにきて終わりが見えてきた。

最高だ。

そんなとても前向きな気持ちで、俺たちは学校へ向かった。


午後八時過ぎ。


目立たないように心がけながら、裏門から敷地内に忍び込む。

目下の問題は配備されている警備員さんの目をどう誤魔化すか、だったのだが、それは片山が警備員室に忍び込み、背後から捕まえて無力化してくれた。

背後から羽交い絞めした状態で素粒子体を弄り倒す、という、まさに「素粒子体で堕とす」みたいなやり方で。


「……やり過ぎじゃないか?」

「朝まで動けなくなってもらうには、ちょうどいいだろ」


容赦なく堕とされて「はへぇぇ」とか呟きながらピクピクしている哀れな警備員のおじさんを、俺はちょっと微妙な気持ちで眺めたわけだが、片山本人は全く動じていなかった。

その後、すぐに俺たちは警備員室を出て一度外に戻る。


『よし、まずは外に溜まっている虫からだな』


夕方に山瀬たちの前でパソコン室ぴったりに虫かごを作ったわけだが、シュレは猫たちの助力を頼んだ際、さらに校門や塀などの敷地の領域に沿っても虫かごを作ったらしい。

せっかく集めた虫がパソコン室で合流してしまわないように仕切りつつも学校内には留めたい、という目的を果たすために。


なので、まずはパソコン室の外にいる虫をシュレの音真似で校庭におびき寄せて倒すことにする。

まだあまり餌の素粒子を体内に溜め込めていないのか、幼虫って感じのものばかりが集まってきた。

生誕時の早めの段階でしっかり半分くらいは駆除できたのが、功を奏している気がする。


サンプルとして捕らえたもので事前に確かめておいた通りに、やはり機動力は第二世代よりも上がっていた。

が、「こっちの力が全く通じない」ほどの変異はされていない。


いける。

読み通りだ。


俺たちはさして苦労せず、どんどん駆除を進めていく。

やがて、外にはもう一匹の虫も残っていないことが、シュレのレーダー検索で確かめられた。


「うっし、あとはパソコン室のみだな……」


片山も口走り、パキパキと指の関節の音を鳴らしたりなどして、気合いを入れ直している。

いよいよ本丸だ。


俺たちはようやくパソコン室に辿り着く。

夕方封印したままの、窓越しにグレーの虫かごの色味。

その奥に赤みの虫が漂っている。

が、もう夜なので暗い分、グレーはより闇色に近く、また赤はいっそうドス黒い赤にも見えた。


足を踏み入れる前に、虫かごのグレー色を薄めて室内を覗いてみる。

すると、真正面の一番遠い壁際にひときわ大きい虫が一匹、くっついているのが見えた。

他の虫の十匹分くらいの大きさだ。

単純にそのくらいの量の素粒子体がゴソッとくっついた、という感じに思える。

そしてその虫を囲むように、外でも遭遇したのと同じ程度の大きさの虫が、おそらく百匹くらいか、ウゾウゾと近侍のように控えている。


「餌食って共食いして成熟期に至ることのみに集中する少数の虫と、それを守る攻撃特化の大多数の虫、の分業制かな」


取っておいたサンプルを観察した結果、そして校庭での観察結果も踏まえると、俺の予測はこんな感じになる。

最初に第三世代を見た時に「蜂みたいなフォルムだ」と感じたのは、そんなに外れではなかったらしい。

蜂ほどに女王がいて働き蜂がいて、というような完璧な洗練はされてないが、確実に分業で効率性を上げようとしているっぽい。

時々ゆうらりと虫かごのキワを飛んでいるのは、哨戒か。


このパソコン室は夏休みの最終盤から今日まで、約一週間のうちに完全に「巣」として出来上がってしまったらしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ