表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シュレディンガーはたぶん猫。  作者: 鰯野つみれ
第三章「逸脱と共依存」
14/35

第14話◇赤い幽霊虫の捜索と、第二世代の襲来

担任からの「なるべく複数人で帰宅しなさい、そしてマスコミには何も話さないように」というお達しで、俺と片山と松岡と山瀬の四人で校門を出た。


パソコン室にいたシュレも、片山の通学カバンの中に回収されてこっそりと潜んでいる。

今日は猫の擬態をしていないため、素粒子体のみのモヤモヤ幽霊スタイルだ。


まずは報道陣を振り切るために、ダッシュして逃亡する。

雨はもう上がっていたけれど水たまりはあちこちにできていて、駆けるたびにぱしゃりと足元が濡れた。


「うえっ、靴下までぐっちょり濡れた!!防水のやつ履いてくればよかった~」

「俺も気持ち悪い……」

「まだ俺のは完全には染みてない。でも時間の問題だな」


松岡と片山が心地悪そうに自分の足元を見つめて嘆いていて、俺も足先の濡れ具合を体感で悟る。


「あー、俺はお前らより家近いから、ギリギリ何とかなりそう~。そういえばさ。現場のマンション付近に、変な赤い虫がウゾウゾいたのを見かけた人がいるんだってよ?」

「おい、その話!!」

「もう一回、詳しく!!」


山瀬が靴情報の後に口走ったその話題に、俺はグルリと振り向く。

片山もほぼ同時に、まるで詰めるような口調で山瀬に迫っていた。


「おわっ!?何だよ急に!!」


山瀬はたまたまそれを思い出し、ごく気軽に口走っただけのようだ。

話のネタを提供するくらいのノリで。


しかし俺と片山が揃って勢い良く食いついてきたので、その剣幕にひどく驚いてしまったらしかった。

軽く十五センチメートルくらいはその場から飛び上がっていた。


「い、いや、別に、ただの噂だって。事件の情報眺めてた時に、そういうネタが流れてきただけ!!たまたま死んだ人がいた場所で幽霊見たって言う人が出てきた、みたいなさ!!」


あくまでもリアル事件にまつわる怖い話、みたいに山瀬はその噂を聞いたのだろうが、俺たちは今、「虫の話」としてそれを聞いている。


「赤い、幽霊虫……」


俺はついつい呟いて、考えを巡らせてしまう。


まさか、この事件は「人の手による猟奇殺人事件」じゃないかもしれない?

例えば、いなくなった人たちは全員、例のあの虫に食われて消えてしまった、みたいな……?


となると、逆に気になるのは、唯一消えていなかった妻の人、「妊婦さん」本人だ。

何で発見されるまで、この人だけが何とかギリギリ生きていたんだ……?


これは、ちゃんと調べた方がいいんだろうな。

俺がチラリと片山の方を見ると、片山も同様の、何か言いたそうな顔でこちらを見ている。

考えていることは大体一致しているようだ。


……さすがに、山瀬や松岡には言えないオカルト話題なので、それ以上は踏み込めずに黙っているしかなかったのだが。

松岡に「そんな怖い顔すんなよ、片山~」と言われた片山は、「ああ」とか「うう」とか唸って言葉を濁していた。




現場のマンション付近は一見何事もなさそうな夕方の光景で、しかし人通りは事件発覚前よりも気持ち少なめかもしれない。

何だかんだみんな怖いんだろう、足早になっている人も多かった。

完全に暗くなる前にこの辺りは通り過ぎておきたい、なんて思われてそうだ。


夕焼けの強いオレンジ色が目に痛い。

目を細めながら分担して虫を探すが、今のところ見つからない。

俺はマンションの正面玄関側の比較的大きな道の方を見ているが、ベランダ側の方に面した細い道は、片山が捜索している。


俺に気付いた奴が、呼びかけるように大きく手を振ってきた。

一回合流して、探し方を変えた方がいいのだろうか。


小走りでそちらに近づこうとしたが、片山が、何か叫んでいる。

が、声は聞こえない。


「え、なに――」


キィィーン、とまるで耳鳴りのような、こすれ合う金属音のような、異様かつ不快な音がしていた。

その音が、辺りの全ての音を掻き消している、と感じる。


それはまるで、シュレが虫の捕獲機に仕込む、謎の振動音に似ている。

地球の生き物の声帯から出たものでは決してない、それ。


これはな、ラ・ルエガの仲間を呼ぶ時特有の振動音を再現したものでな……。

いつだったか、捕獲機の試作についてみんなで考えていた時にシュレがそう語っていたことが、ふと思い起こされる。


つまり。

いるんだ。

そこに。


俺の目の前、鼻先に、いつの間にか、その虫がいた。


でか、い。

軽く十センチメートル近い大きさがある。

始祖の虫の、ちょうど倍くらいの体長。

思わず「俺の目、縮尺間違えたのか?」なんてバカなことを思ってしまった。


そして、始祖より赤い。

確かに、噂通りだ。

夕焼けの色に馴染んで透けた輪郭がキラキラして、一部消えて見える。


よく見えない、もっと……。

俺はもう少ししっかりと観察したいと願う。

そうして、そちらにそっと手を伸ばす。


途端、パシリと青い閃光が指先に見えた。

青い――――まるで虫が素粒子を食う時に出る、あの光みたいな色が。


「危ねぇ!!」


突然、聞こえてきた片山の声と共に視界は遮られた。

網状に見える何かが視界を覆う。

何だこれ、と疑問に思っているうちに襟首を掴まれて強く引っ張られる。

そうと認識した瞬間、アスファルトに投げ出されて背中を強打した。

その腹の上に、片山の体がドッと降ってきた。


「うぎっ、な、お前っ、」


滅茶苦茶痛い、苦しい。

当然のこととして文句を連ねようとした俺だが、上にいる片山の尋常じゃない震えに気が付く。


「よ、良かった……間に合った……」


切れ切れに吐き出した声も、俺の耳元で震えている。


乱暴かつ重くのしかかるようなこれは、全て俺を庇うための体勢だったのだと、ようやく気付いた。

もしもの場合に身代わりになるような形で庇われたのだ。


そして今、まるで虫網のように俺と片山、それからその向こう側の虫との間を隔離しているもの。

全く初見の謎のカーテン、蚊帳状のそれは、おそらく、安全面を考えてシュレが開発したという、あの虫と人間を妨げるバリアーみたいなやつに違いない。

実物が展開されたのは、これが初めてだった。


「まさか……俺、今、虫に殺られそうだったのか……?」


ふたつの状況を脳内で組み合わせて、ようやく俺の脳内でも正確な状況が理解された。

そうだ、と示すように片山が腕にぐっと力を込めてくる。


『その通りだ。我々は既に、敵として完全にマークされているらしい。仲間を呼ぶ警戒音が鳴っていただろう?』


シュレもぬるりと俺の横に降り立つ。

あのおかしな音こそが、接敵を仲間に知らせる警戒音だったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ