41 君の王子様
《それから…これも言わなきゃ。一番大事なこと。「能力があってもなくても、私はアルヴィンのことを愛してて、全部受け入れる」って。ああちょっと待って、話の組み立てができないんだけど何からどう言えばいいの…》
どくんと心臓が大きな音を立てた。
《能力があっても、愛してる》って?
《ってか、アルヴィンには心の声が聞こえるなら、今私が考えてたこと、もしかして全部…》
「…聞こえてるよ」
《うわああああああ!全部!?》
「うん」
「…恥ずかしすぎるんだが」
ようやくフレイアの心の声と現実の声が一致する。
「僕は…僕は嬉しい。本当に僕のこと気持ち悪くないの?この能力があっても…フレイアの気持ちは変わらない?」
嬉しくて、でもまだ怖くて不安で、それでも期待に胸が膨らんで、目の周りが痛くて熱い。
フレイアはそっと僕の頬に手を伸ばす。
「当たり前だろ」
《だって能力があろうがなかろうが、アルヴィンが大切なものを差し出して私を助けてくれた事実は変わらないじゃん。能力とか関係ない。むしろ能力がアルヴィンの優しさと強さを育んだなら、私は能力も含めてアルヴィンを愛するよ》
ああ、僕は…なんて幸せなんだ。
利用されてもいいとか、そんなことを考えていた自分が馬鹿みたいだ。彼女はそんなことを考えるような人じゃないのに。いつだってただ真っすぐに、僕に愛を向けてくれていたんだから。
こんな風に僕を受け入れてくれる人がいて、それが僕の愛する人で…本当になんて幸せなんだ。
「泣くな、アルヴィン」
気づいたら、温かい涙が頬を伝っていた。
《いや、こういうときは思い切り泣いて感情を解放したほうがいいのかな。しかもアルヴィンの美しい泣き顔を真正面で拝めるとか私が得すぎる。やっぱ思う存分泣いてもらって、この顔を私の胸に刻んで、のちのち彫刻にしよう》
「ふふっ…フレイアがそんなこと考えてたら、何だかおかしくて泣けないよ」
「そうか」
フレイアがふんわりと抱きしめてくれる。
《でも、とにかくどんなアルヴィンも愛してる》
「僕も、愛してる。負けないくらい」
高速賛辞はお返しできないけど、気持ちは負けないって、今なら思えるから。
僕がぎゅっと彼女を抱きしめ返すと、《痛っ…あばらとあばらがグッバイしてる》という心の声がした。
「あばらが…折れてるの!?」
だから抱きしめ方が優しかったのか。
「あのエーリヒってやつ、けっこう強くてな。何発か喰らったんだ」
《というか、無意識にちらりと考えたことまでわかるの?厄介すぎぃ。何も隠せないじゃん》
「骨折は隠すものじゃないでしょ。早く戻って医者に…」
「医者に診せたところできることは限られてる。自分の骨を信じてつながるのを待つしかない」
「なにを悠長な…!早く帰らないと」
「早く帰ったほうがいいのは確かだ。アルヴィンの脚を診せる必要があるからな」
「だめだめ、フレイアが絶対に先だよ」
「赤猪を侮るな、この程度の怪我…」
「侮るとかそういうことじゃなくて、妻を優先するのは当然!」
《はううううっ!突然の妻呼びと妻ファーストいただきました!それだけで骨がくっつきます!!》
「…そんなわけないでしょ」
ナビにフレイアが、《やっぱり君が心配でさ》と戻って来たローグに僕が乗る。
《ハンサムさんが無事でよかったわぁ》
《ナビも、よく野生の女と一緒に来て無事だったね》
《大変だったわあ…いきなり相手に突進して斬りかかって、四人だか五人だか相手に大立ち回り。それで私のたてがみが剣で切られちゃったのよぉ》
《でもかっこよかったよ。強いメスって素敵だな》
《本当?じゃあ私と子作り、してくれる?》
《いいよ》
《きゃー!!聞いた!?ねえみんな聞いた!?》
「みんな」と言われても、答えられる人間は僕しかいない。だから僕はナビに「おめでとう」と声をかける。
「まさか…馬の声もわかるのか?」
「たぶん全部ではないけど、なんとなく。ナビとローグはとりわけ賢いのか、はっきり聞こえる」
「すごいな」
《っでいうか、よく考えたら、今までの心の声も全部聞こえてたってことだよね?ウエスパシアから連れ出した日からずっと?》
「目を合わせてるときと、身体のどこかに触れているときはね。ケシに”間接キス”って怒鳴ったり、リトにやきもち焼いたりしてたね」
フレイアが「ぐっ…」と額に拳をあてて、僕はくすっと笑う。
…可愛い。もっと見たい。
「離宮で初めて会ったときの…《私の王子様》っていう声も聞こえてたよ」
「やめてくれ」
《恥ずかしさで死ぬ。けどこの恥ずかしすぎる声を全部聞いても…それでも私を愛してるって言ってくれるんだよね》
「もちろん愛してるよ」
「勝手に心の声に答えるな…っ!」
《でも…だったら、やっぱりアルヴィンは私の王子様なんだ》
嬉しいような、くすぐったいような。
僕はまだ、彼女を救える王子様にはなれていない。
だけど、いつかきっと。




