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嫌われ皇子の僕を賠償金代わりに受け取った武闘派女王が、実は脳内爆裂乙女だった件  作者: こじまき


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35 寝室での顛末

「昔はこうやってあんたをよく起こしてもんだねえ」


ハンリネ婆ちゃんの声で、眩しい朝日に照らされる。そう言えば、太陽が高くなってから目覚めるのは久しぶりだ。女王になってからはずっと、太陽が昇る前に起きて仕事してたから。


「それにしても、派手にやったもんだ」


呆れられるのも無理ない。アルヴィンのために大枚はたいて整えた部屋がボロボロだ。


「ドレスもこんなにしちまって。針子たちが泣くよ」

「…ごめん」

「気に入ってたんじゃないのかい?」

「…気に入ってた」


あの瞬間までは。



ーーー



ウィナがアルヴィンの袖を引いて、二人がテラスに出ていくのが見えた。


「なんだろう、あの雰囲気」という小さな違和感。


盗み聞きするつもりはなかったし、ただ目で追っていただけ。


だけど…


後姿と横顔しか見えなかったけど、アルヴィンは…楽しそうだった。


顔と顔を近づけて声を潜めて話して、照れたように目を伏せて笑って。それからウィナがアルヴィンの背中に手を回して、アルヴィンは切ない表情でウィナを見つめて。


私の前ではいつも戸惑ったような顔しかしないのに。


ああいう顔、するんだ。


…好きな人の前だから?


そう気づいて、周りの音が遠のいた。


「フレイア、顔色悪いぞ」

「飲みすぎて吐きそう。部屋戻るわ」


嘘。


アルヴィンに酔ってるとこなんて見せられないから、一滴も飲んでない。こんなことなら周りの様子なんてわからないくらいべろべろになっとけばよかった。


「主役がいなくなってどうすんだよ」

「みんな、もうこれが何の宴かなんて忘れてるよ」


むしろ忘れてほしい。


全部忘れて。結婚なんてなかったことにして。


ウィナはいい人だ。彼女が大神官になってから福祉政策はお任せでうまく行ってるし、私の長い祈りにも嫌な顔ひとつせず付き合ってくれる。


それにとびきりの美人。傷ひとつない白い肌、ピンクの髪、水色の瞳。飾り気のない神官の制服を着てても、誰もが目を奪われるほど。


アルヴィンと並んだら、誰もが認めるくらいにお似合いの…


「暴力的な執着モンスター」「傷だらけの赤猪」「好きな相手にキスされたのに張り手を喰らわす女」…そんな私じゃ決して敵わない相手。


寝室に駆け込んで扉を閉めたら、鏡に自分の姿が映る。


鏡に映る自分の顔は、嫉妬にまみれて醜い。


「消えろ…っ!」


気づけば、鏡を叩き割っていた。破片が突き刺さったドレスは、私の執着心の塊だ。


緑と金のドレス。


こんなドレスに、何の意味があるの?


アルヴィンは、ただ女王の機嫌をとる必要があって、少し気を利かせてお互いの色を組み合わせただけ。なのに何を浮かれていたんだろ。


ドレスを破いて脱ぎ捨てたら、傷だらけの身体が露わになる。こんな女が、アルヴィンの隣にふさわしいわけない。私なんかが彼に好きになってもらえるわけない。


手首に縋りつくアメジストのブレスレットは、「彼の気持ち」というにはあまりに頼りない。


引きちぎろうとして、でもできなくて。


「離宮から出すだけでよかったのに…」


無理やり結婚してここまで連れてきてしまった。アルヴィンに愛してもらえるかもしれないなんて、馬鹿が見る夢に過ぎなかったのに。


「わかってたのに…!」


椅子を蹴り飛ばし、剣を振るって柱に傷を刻んでるうちに、また身体に傷が増えていく。


湯殿を扉を乱暴に開けて、傷をたわしで何度もこする。痛い。でも消したい。痛い。お願いだから消えてよ。消えないってわかってるのに、止まらない。


「だけど傷が消えたって、私が愛されることはない…」


鉄の匂いのする湯船で寝て、気づいたらアルヴィンが私が覗き込んでて。


どうして?好きでもない女なのにそんなに心配して。


私の機嫌を損ねたら、ウエスパシアが危ないとでも思ってる?


そんな気遣いは不要だよ。夫婦仲がどうなっても、私はウエスパシアを攻めたりしない。


テムになすすべもなく攻め込まれた国だもん。これから他の属国も次々反乱を起こすだろうから、私がこれ以上どうこうしなくてもウエスパシアの崩壊は目前。自分でとどめを刺してアルヴィンに恨まれたくもないし。


だから義務感での心配なら…


《顔、見たくない》


ここじゃなくて、ウィナのそばにいればいいじゃん。私のことなんて放っといて、どこでも好きなところへ行ってよ。


《早く出てって》


私の心の声が聞こえたみたいに、「さようなら。本当にごめん」とアルヴィンは出て行った。


なんで悲しそうなの。なんで謝るの。本当は嬉しいんでしょ?小賢しい演技なんて必要ない。


嘘つき。だけど彼を嘘つきにしたのは私。


喉の奥が熱くなって、息が止まって、涙が溢れてくる。



ーーー



「旦那が明け方に城を出たみたいだけど、いいのかい?」

「…うん」

「リトがつけてるが、どうする?」

「彼の安全が確認できたら帰ってきていいって、鳥で知らせたげて」


これでいい。きっと、最初からこうするべきだった。


もっと早くこうしていたら、ただの「淡い初恋」で終わってたのに。


「私、最低だ…」

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