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嫌われ皇子の僕を賠償金代わりに受け取った武闘派女王が、実は脳内爆裂乙女だった件  作者: こじまき


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28/42

28 二十一歳男子

早く寝室に逃げ込みたい。さっき自分が言ってしまった恥ずかしいセリフから逃げ切りたい。


早く…早く…!


ようやく寝室に逃げ込んで、扉を閉めると同時にずるずると座り込む。


「ああもう…」


カタリと音がした。誰かいる。はっと顔を上げる。


「フレイア!?」


いつもは夜遅くまで帰ってこないのに、どうして。


「…なんでいるの?」


《いたらだめなの?》


そう意味じゃない。ただどうして、今日に限って部屋にいる?どうして「まともにフレイアを見られないような日」に限ってここにいるのかは、ぜひ聞きたい。


「…先方の都合で視察がキャンセルになって、予定が巻いたんだ」


《本当は仕事を爆速で終わらせて帰って来たんだけど、言えない…》


「そう…」


《なんで私がいるだけでそんな気まずそうなの?最近寝てるときにほっぺたを指でふにふにしてくるから、ちょっとは距離が縮まったと思って期待して、お茶とお菓子を楽しみながら二人でおしゃべりしたかったんだけど…全部私の勘違いだった?》


「…!」


なぜ寝ているフレイアの頬にそっと触っていたことが、本人にバレている?寝てることを確認してから触ってたのに、実は起きてたのか?


僕ははっとした。


いつだったかケシが「戦場で寝起きすることが多い戦士たちは、警戒心が獣並み。眠りがかなり浅くて、ちょっとした物音や刺激でも起きて戦闘態勢に入れる。お前らもそうならなきゃ死ぬぞ」と実習で言っていた。


フレイアレベルの戦士であれば、そうっと頬に触れられるだけでも起きてしまうのか。


あのささやかすぎる…というか臆病すぎるスキンシップが、しっかり本人に把握されていただなんて、恥ずかしすぎる。


顔が熱くなってくるのがわかる。


「どうした?顔が赤いような…」


《アルヴィンくんはお熱なのかな?》


フレイアは心配そうに僕に近づく。


「大丈夫だからっ!」


「はあ…大丈夫と言うやつが一番危ないんだ」と僕を見下ろしながら、フレイアはぴたっと動きを止めた。


《っていうか…これ…なにこれ、このアングル!?潤んだすみれ色の瞳でアルヴィンが私を熱っぽく見上げてくるこの画角!まさに神が私に与えたもうた至福である…!これは誘われていると誤解してオケ?キスしてそのままなだれこむ…みたいなね!!》


違う、ただ恥ずかしいだけなんだ。


《なーんてね。こういうのってさ、誤解しちゃって勝手にどきどきするんだけど、本当は相手が高熱出してて、熱で目が潤んでるだけってパターンなんだよね。何度もロマンス小説で読んだから知ってますよ、私は。騙されないんだから》


そして僕の前に屈んで、「ほら、熱が…」と額に手を伸ばす。温かい手がふわりと額に触れた。


「…ないな。こんなに顔が赤いのにおかしいな」


そう言ってフレイアの手が僕の頬に降りてくる。


「顔も…問題ないか」


《でも、本当に大丈夫?》


大丈夫じゃない、フレイア。大丈夫じゃないんだ、その姿勢は。


頼むから男の前で屈むときは、チュニックの胸元を手で押さえてくれ。僕を「妻の胸元を不躾に覗き込む夫」にしないでくれ。


《フレイアって意外に胸でかい》というデルの心の声が、最悪のタイミングで蘇る。黙れデル。だが同意はする。


本当に熱が出そうだ。僕は本能に抗ってぎゅっと目をつぶる。


「フレイア…本当に…!何もないし大丈夫だから!その…」


何か、何か理由を。


「ああ…!今日は晩ご飯がカレーだったし…ちょっと辛くて…それで顔が火照ってるだけじゃないかな」

「…そうか」


《ならお茶…はできるのかな、それとも無理かな。誘ったら気を遣わせるかな…?無理やり付き合わせたくはないし…》


「その…カレーが辛かったから口直しに気分転換にお茶をしたい気分で…!テーブルの上のお茶とお菓子、もらっても?」


《やたっ…!》


「好きにしろ」

「…ありがとう」


確かに美味しいのだろうけど味なんてよくわからないまま、僕はお茶とお菓子を胃に流し込んで湯殿に逃げ込んだのだった。


「ああ…もう…鎮まれ自分…」


今夜からはもう、フレイアの頬には触らない。

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